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日系食品輸入業者が悲鳴=サントス港で荷物足止め=「倒産の危機どころでない」=深刻な状況に陥る会社も

ニッケイ新聞 2012年6月30日付け

 「倒産の危機などというレベルは、もう通り越している」—。東日本大震災による福島原発事故から1年3カ月が過ぎたが、当地では多くの日本食材店で日本産品が棚に並ばない状態が続いている。事故後、ブラジル政府は日本からの食品輸入に制限を設け、日伯政府間で決められた手続きに基づいて輸入がいったん再開し、昨年9月頃から商品が到着し始めた。しかし、サンパウロ市にある某日系輸入会社Aでは昨年11月から、再び日本食品が港で足止めされるという状況に陥っている。そのため「売り上げは激減」という同社長は冒頭の深刻な経営状況を明かし、政府に対する怒りをあらわにした。

 「もともと原発は日本政府が安全性を保証して始めたもの。我々だけでなくコロニアの消費者にも多大な迷惑をかけているのに、政府関係機関からは陳謝の言葉の一つもない。恥の文化はどこへいってしまったのか」。
 28日現在、同社が購入した商品入りのコンテナ13本がサントス港に止まったまま。「購入した商品の支払いもあるし、入ってくるはずの売り上げが入らない」。コンテナの借用費や倉庫費など諸経費、検査費用も全て輸入業者持ちだ。
 古いものだと昨年11月に着いたコンテナまで止まっており、商品は賞味期限切れに。同社長は「廃棄には多額の費用がかかる。日本に送り返すしかない」とため息をつく。当地で廃棄するには国税庁(Receita Federal)に1キロあたり10レアルの処理料を払わなくてはならない。すべて合わせると少なくとも500万レ以上の損失になるという。
 放射性物質の食品検査を行う場所はサンパウロ州内ではサンパウロ大学の一カ所のみ。同社社員によれば検査には平均50日もかかり、その後に通関手続きとなるため、商品が販売できるのはさらに後だ。他の輸入業者も同様に頭を抱えている。
 東洋街の日本食材商店に聞くと「練りわさび、パン粉、お菓子類などが一切入っていない」といい、中国産や韓国産で代替している。「値段が2倍以上でも日本産がいいというお客さんもいるが、代替品を売るしかない」と肩を落とす。
 この問題を調整すべき日本政府関係機関は、伯政府にどのような交渉をしているのか。担当の森田健太郎書記官は「数え切れないほどサントス港やANVISA(国家衛生監督庁)に出向き、問題解決のため話し合っている」と弁明した。規制撤廃も申し入れているといい、「放っておいたわけではない。ブラジル政府の対応が遅い」と、大使館としての対応の正当性を強調した。
 現状把握のため、3月にはA社も含めたサンパウロ市の輸入業者約30社を対象に調査を行ったという同書記官は、「(倒産の危機に瀕している業者は)ごくわずかだと思う」。事態を楽観的にみているようだ。
 昨年12月に税関の担当者が変わり、検査方法の記述があいまいだったために混乱を招き、全品検査が行われるようになったと同書記官はいう。では止まり始めた12月から5月の間は、どう対応していたのか。「(3月に赴任したため)前任者の対応については分からない」。
 大使館が申し入れた結果、最初に輸入される商品のみ検査対象とするという指示が、ANVISAから今年5月に出た。「今後、この状況は緩和されるのでは」と同書記官はみている。働きかけていればそれなりの成果はあった、ということなのだろう。
 21日にリオであった日伯外相会談で、輸入規制の撤廃を要請した玄葉光一郎外相に対し、パトリオッタ外相は「科学的精査の結果に応じて緩和や解禁を検討する」との考えを示したという。
 しかし、A社社長は「これ以上政府の対応は待てない。悠長なことは言っていられない」状況にまで追い込まれてしまった。こうなる前に日本政府はもっと手の施しようはなかったのだろうか。

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