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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第95回

ニッケイ新聞 2013年6月14日

「本物は美味しいね」
「ニセモノなんてあるのか」児玉は不思議に思って聞いた。
「あるよ。パラグアイから入ってくるウィスキーはニセモノが多いのさ」
 パウリスタ新聞にはパラグアイは酒好きには天国だと紹介されていた。パラグアイは海には面していないが、海軍がある国なのだ。アルゼンチンとパラグアイとの国境をパラグアイ川が流れ、首都のアスンシオンはパラグアイ川に面している。アスンシオンの南四百キロの地点でブラジルから流れてきたパラナ川と合流し、アルゼンチンを流れ大西洋に注ぎ込む。
 アスンシオンは自由貿易港で、免税のウィスキーやワインが街のバールに並ぶ。本物のパッケージと瓶を利用した偽物のウィスキーが、パラグアイとブラジルの国境から密輸入され、それがサンパウロ市内に出回るらしい。
 サンドラはコップのウィスキーを開けてしまうと、窓際に干してあったタオルを取って、バスルームに入った。シャワーの流れ落ちる音が聞こえてきた。
 バスタオル一枚を体に巻きつけた格好で出てくると、サンドラは勝手にベッドに入り込んできた。白人のような肌の色をしていたが、体のいたるところにシミ、ソバカスがあった。児玉も服を床に脱ぎ捨て、ベッドに横になった。豊かに見えたサンドラの胸の隆起はブラジャーを外すと、棚から吊ったヘチマのように垂れ下がった。
 児玉は一瞬体を引こうとしたが、サンドラの両手が首に絡みつき、そのまま体を重ねるしかなかった。児玉が消極的なことがわかると、サンドラは怒ったように体を起こして、児玉を仰向けに寝かした。
 児玉の体を首から胸へ、溶けたアイスクリームを嘗めるように舌を這わせた。それでも児玉は萎えたままだった。サンドラはこれでもかと執拗に舌を這わせ、男性自身を口に含み、口の中で転がした。
 硬直すると、「いやなことは全部忘れさせて上げるよ」と言った。
 馬乗りになって児玉の男性自身を自分の中に導き入れた。サンドラは木製ベッドの底が抜け落ちるのではないかと思えるほど、激しく腰を上下させた。その度に臍の辺りまで伸びた乳房が、まるでゴムマリが跳ねるように、児玉の腹部で上下した。
 児玉は目を瞑り、サンドラの乳房を掴み、口に含んで吸った。サンドラの腰の動きがさらに激しくなり、廊下に響くような喘ぎ声を上げた。
 やがて児玉が果てると、サンドラはそのまま児玉の上に体を重ね、キスをしたり、萎えた男性自身を指で弄んだりした。
 天井を見つめながら、児玉が聞いた。
「君のルーツはどこなんだ」
 サンドラはルーツの意味がわからなかった。両親、祖父母の国籍と肌の色を聞いた。
「祖父母から祖先はイタリアからの移民だって聞いたことがあるけど、ホントかどうかわからないよ」
「それで肌が白いんだ」
「白人は嫌いかい。モレーナがやはり好きなのか、ジャポネースも」サンドラが笑いながら言った。
「そうではない。いろんな肌の女がいてブラジルは面白いよ」
「肌の色なんて白から黒までいろいろあるよ。それがブラジルさ。でも、よく覚えておいた方がいい」
「何だい」児玉が聞き返した。
「知りたいかい」サンドラが妖しく笑い、精液で濡れたままの男性自身を口に含んだ。回復するのを確かめて言った。「私をもう一度いかせてくれたら教えてあげるよ」
 いつ果てるともないセックスが続いた。
 東の彼方が赤く滲み、光が部屋に差し込み始めた頃、児玉は目を覚ました。一時間くらいは眠っただろうか。うなされることもなかった。出社しようと児玉はバスルームでシャワーを浴びた。


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