移り住みし者たち=麻野 涼
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第151回
ニッケイ新聞 2013年9月3日 「君がトレメ・トレメで遊んでいるのも、ボアッチ通いしているのも聞いていた。そんなことについて注意するつもりはない。ブラジルの土を踏んだ独身の男は皆そうやって遊んできた
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第152回
ニッケイ新聞 2013年9月4日 「名前はなんていうの」マリーナは子供の顔を見ながら聞いた。 「望マリオっていうの」叫子が答えた。 児玉も改めてマリオの顔を見つめた。浅黒い肌の色をしている。 「日本
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第128回
ニッケイ新聞 2013年8月1日 その日も南米銀行関係者の話を聞き、パウリスタ新聞に戻り、藤沢工場長の連絡を待っていた。 「話がある」 中田編集長が顎でしゃくるようにして、児玉を会議室に読んだ。編
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第129回
ニッケイ新聞 2013年8月2日 「そうよ。あなたが来る前は、日本からすごい記者が来るって話だった。あなたがくれば少しは楽ができるかと思っていけど、取材先は以前と同じで負担は減らないし、タクシー代も出
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第130回
ニッケイ新聞 2013年8月3日 中田編集長の叱責を受け、安藤の助言をもらっても児玉は午後になとる編集部を出た。行く場所は人文研だった。一九七八年は移民七十周年で、日系社会は祭典に向けて様々な準備を
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第131回
ニッケイ新聞 2013年8月6日 ミッシェルまでは十分もしないで着いてしまう。児玉は意を決し言った。 「ナモラーダ(恋人)ができたんだ」 「それで……」テレーザは何事もなかったように聞き返した。
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第132回
ニッケイ新聞 2013年8月7日 幸代は白徳根の話を聞きながら、共和国に帰還した家族がどんな生活を送っているのか想像するだけで恐ろしくなってきた。トランジスタラジオさえ聞くことができない。電気が引か
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第133回
ニッケイ新聞 2013年8月8日 そう言ったきり自分部屋に入り、風呂にも入らずに寝てしまった。その様子を見て、幸代は兄の容福はやはり死んでいると確信した。自分の思いを心に秘めておくことのできない母親
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第134回
ニッケイ新聞 2013年8月9日 訪問団は夜行寝台列車に乗せられ、一部屋ずつ与えられた。部屋には金日成の肖像画が飾られていた。 「みんな平壌に着きさえすれば家族と再会できると思って、夜行列車に十八時
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第135回
ニッケイ新聞 2013年8月10日 二人の案内員の手前、そう言うしかないのだろうと察して、仁貞は家に案内するように言った。しかし、寿吉は「ここからは遠いし、同志たちが用意してくれたこの場所で話は十分