ホーム | 連載 | 2013年 | 第2次大戦と日本移民=勝ち負け騒動の真相探る=外山 脩 | 第2次大戦と日本移民=勝ち負け騒動の真相探る=外山 脩=(71)  

第2次大戦と日本移民=勝ち負け騒動の真相探る=外山 脩=(71)  

 

ニッケイ新聞 2013年8月22日

 

 以上の十年史の記事は、当時のポルトガル語の新聞記事の翻訳や阿部豊の手記によって構成されている。
 ところが、筆者が2012年、現地を訪れてみると、意外なことが起こった。
 まず、地元の文協の斉藤修三副会長が、
「私は事件後、ここに転住して来たが、そんな大暴動があったという話は、聞いていない」 と首を傾げたのである。
 当時、騒ぎを目撃したという浅野多津夫という92歳になる老人に会うことも出来たが、やはり大暴動説を否定した。
「日本人が一人殺され、何人かが殴られ、兵隊が出動したが、重軽傷50数人などということはなかった」
 と言う。
 阿部宅の爆破も、
「花火だった。単なる嫌がらせ、と阿部の息子さんから聞いた」
 と。
 もう一人、騒ぎを目撃した西谷博という、やはり92歳の老人がサンパウロに住んでいて、その話を聴くこともできたが、同様の趣旨であった。
「騒ぎは、ツッパンから兵隊が50人くらい来て、街角に立つと収まった」 それでは、十年史に出てくる記事は何なのか……ということになる。
 翻訳したポ語新聞の記事は作文としても、阿部は当時、同地の邦人社会の代表的存在で信用もあった人である。
 その手記通りのことがあったのなら、地元の邦人社会に伝わっていない筈はない。
 なんとも腑に落ちぬ話である。

 続・ビリグイ方面

 日本人による日本人の襲撃に、話を戻す。
 ノロエステ線ビリグイ方面で、またも事件が起こった。
 7月30日、ブラウーナの栄拓植民地の稗田鶴吉(50)が射殺されたのである。射殺者不明。
 稗田はアルマゼン・デ・セッコス・イ・モリャードス、つまり農産物の仲買商を営んでいた。
 その日、鶴吉は友人と馬で知人宅を訪問、帰宅途中、牧草地帯を歩いていた時、突如、狙撃された。
 この事件に関して、同じ栄拓植民地にいた鳴海忠雄は、
「鶴吉さんは、認識運動には関係なかった。原因は、それではないと思う」
 と語っている。
 とすれば、遺族には失礼だが、一応、意趣返しの線も考えねばならない。
 この鶴吉の次男の長之(タケユキ)が、2012年、80才を越して、スザノで健在であった。
 氏は、
「父は植民地のためにも随分尽くし、皆から感謝されていた。そういうこと(意趣返し)は考えられない」
 と、強く否定した。

 8月11日、ペナポリスで藤原栄次郎が狙撃され負傷した。詳細は不明である。(栄次郎を悦次郎と記す資料もある)
 8月中旬、またブラウーナで、事件が起きた。リオ・フェイロ沿岸の森林中で、戦勝派の過激分子の一団が、警戒中の州警兵に包囲され、銃火を交え、負傷一名を残して逃亡した──という。
 十年史記載のその記事には、過激分子たちの指導者として松家元?という名が出てくる。
 別資料だが「8月30日にブラウーナで田白タケジ夫妻が襲撃された」
という記述があり、これにも、襲撃者は「松家グループ」とある。
 この、松家とは何者なのであろうか?
 後ほど、もう一度名前が出るので、その折に考える。(つづく)


 

 

image_print

こちらの記事もどうぞ

  • 《記者コラム》パンデミックは好機?! 一気に進む世代交代2020年9月22日 《記者コラム》パンデミックは好機?! 一気に進む世代交代  「戦後移民の時代」は訪れることなく、過ぎ去った。結果的に、それで良かったのかもしれない。アアダコウダ言わず、素直にそう考えた方が前向きか。30代、40代の若者らが中心になって実施され、実に手際よく広範な内容を含みつつ、コンパクトに凝縮された「文協統合フォーラム2020」( […]
  • ■訃報■本紙営業・阿部ヤエコさん2020年9月15日 ■訃報■本紙営業・阿部ヤエコさん  本紙営業部に長年勤務した阿部ヤエコさんが12日午前、サンパウロ市南部にある自宅で亡くなった。十二指腸癌の持病があり、当初は胆石治療のために入院した。12日にいったん退院した後、背中の痛みを覚えるなど急変。強い吐き気をもよおして息が詰まり、午後7時半頃に亡くなった。享年 […]
  • 手塚治虫の絶筆『グリンゴ』=ブラジル日系社会が遺作に(上)2020年9月4日 手塚治虫の絶筆『グリンゴ』=ブラジル日系社会が遺作に(上)  『火の鳥』『ブラック・ジャック』などの傑作を次々に発表し、存命中から“マンガの神様”と呼ばれていた天才漫画家・手塚治虫(1928―1989年)を知らない日本人は少ない。しかし、彼の未完の絶筆『グリンゴ』がブラジル日系社会をモデルにしていたことはあまり知られていない。 […]
  • 憩の園=二日間で3200食販売=食販売に予想外の大反響=感謝ライブで5時間半配信2020年8月25日 憩の園=二日間で3200食販売=食販売に予想外の大反響=感謝ライブで5時間半配信  「憩の園は、このコロナ災禍で多くの方に助けていただいた感謝の意味を込めて、このイベントを開催しましたが、まさかこんなに日本食が売れるとは思いませんでした。心の底から感謝しています」――日系高齢者福祉施設「憩の園」を運営する救済会の吉岡黎明会長は、そう深々と頭を下げて感 […]
  • 桑名良輔在サンパウロ総領事が着任=「皆さんに早くお会いしたい」=収束後、地方日系団体訪問へ2020年8月20日 桑名良輔在サンパウロ総領事が着任=「皆さんに早くお会いしたい」=収束後、地方日系団体訪問へ  在サンパウロ総領事館に総領事として8月7日に着任した桑名良輔氏(神奈川県、58歳)は17日にオンライン取材に応じ、ブラジル日系社会の役割と世代継承への側面支援を強調し、日系社会との更なる連携強化について「皆さんに早く直接にお会いしたい」と熱く語った。  桑名総領事は […]