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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年10月9日

 子供のころ、近所の銭湯で見事な刺青が入った入浴者がよくいた。見とれていると、嬉しそうに背中を見せてくれたものだ。家でそのこと話すと親があまりいい顔をしなかったことを思い出す。「入れ墨お断り」という看板は、半世紀ほど前からあるらしいが、のどかな時代だったのだろう▼ニュージーランドのマオリ族出身で伝統の刺青を入れた女性が、北海道の温泉施設で入浴を断られたというニュースを知った。いわゆる異文化問題。施設側としても判断に悩んだだろう。「ヤクザはダメ」といえないから、こういう規則を設けたのだろうが、ファッション感覚で入れる若者も増えている。難しいところだ▼温泉に浸かる愉悦は何物にも代えられない。コラム子が刺青を入れない最大の理由だ。ただ欲張りな若者は多いらしく、刺青があっても入れる温泉を紹介するサイトもあるようだ。当地では、おとなしそうな日系の女の子が刺青をしていてドキリとすることがある。研修などで訪日したさい、入浴を断られているのだろうか。気になるところだ▼そもそも日本では刺青は罪人に施すことから始まった。各藩特有の刺青があり、罪人の動きを封じ込める役割も果たした。尾張では額に「犬」と入れたとも。それがアウトローの象徴になり、江戸時代に芸術の域までに開花したが、常に恐怖の対象だった。船乗りたちが魔よけで入れた西洋の背景とはまるで違う▼2020年の東京五輪。世界からの旅行者が大挙して訪れる。観光業界も大張り切りだろう。日本の「おもてなし」の粋ともいえる温泉旅館は、どう対応するのだろうか。これもまた気になるところだ。(剛)

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