ホーム | 日系社会ニュース | 人文研勉強会で中谷氏講演=お茶屋敷の歴史や意義語る=「自然を実感する建物」

人文研勉強会で中谷氏講演=お茶屋敷の歴史や意義語る=「自然を実感する建物」

ニッケイ新聞 2013年10月19日

 サンパウロ人文科学研究所(本山省三理事長)は15日、文協ビルで勉強会「コロニア今昔物語」を開催した。陶芸家の中谷哲昇氏(70、大阪)が講師となり、「カザロン・デ・シャー(お茶屋敷)の復元と保存活動」をテーマに、建物の復元工事、歴史的背景や芸術的側面にも言及し、約15人が耳を傾けた。
 「カザロン・デ・シャー」は紅茶の産地であったモジ市コクエイラ区にある旧製茶工場の別名。「片倉製糸(現片倉工業)」の今井五介氏が私財で土地を購入し、農学士の揮旗深志氏、大工の花岡一男氏が建設に関わって、戦争中の1942年に完成した。
 同施設は最初、農作物全般の生産に使用されたが、第2次大戦でインド・ヨーロッパ間の国交が断絶し、紅茶の価格が高騰したことをきっかけに、本格的な製茶工場として60年代まで利用された。その後は倉庫として使われ、86年には美術、歴史、考古学的な価値が認められて連邦文化財に指定された。しかし、かなり荒廃が進んだ状態になっていた。
 保存と修復活動を行う「カザロン・デ・シャー協会」代表を務める中谷氏は、「サンパウロ州に59ある連邦文化財のうちの一つ。日本移民においてはレジストロとカザロンの2カ所のみ」で、いかに貴重であるかを強調し、「今井氏の自腹だったためか、片倉製糸の社史にも記載なし。人文研の資料にもほとんど記述がない」とし、日本移民史から孤立した建物であると位置付けた。
 同氏が修復に関わろうと決めた理由は、「文化的価値があるからといった大義名分ではなく、手仕事をする者に共通する感性を建物から感じ取れ、愛着が沸いたからだ」という。97年から同協会が管理する建築物となっているが、「州政府や日系の既存団体にも協力を依頼したが、修復に関心を持ってくれず、自ら協会を立ち上げることになった」と96年に協会を創立した苦労を振り返った。
 技術、造形、表現内容、創造性といった四つの観点のうち、「手すりなどに自然な枝ぶりをそのまま生かしたところに暖かさがあり、人間は自然の中で生きていることを実感する。そんな考え方が生きている建物だ」と説明し、花岡氏の造形が形を変えた主張として垣間見えると評した。
 工事は現在、最終段階の第3期で、完成を目前に控えているという。「携わって17年。気がすむまでやりきるといった執念深い性格もあるが、一世だからこそ生活を省みず修復活動に専念できた。家族の理解にも感謝」と述べ、「今後は催し物を実施するなど観光地として盛り上げたい。修復活動とは性格の違う動きも必要となってくる」と先を見据えた。

image_print