ホーム | 文芸 | 連載小説 | 日本の水が飲みたい=広橋勝造 | 連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(39)

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(39)

ニッケイ新聞 2013年11月6日

 今、到着した飛行機から、弓や槍を持ち、黒と赤の線で半裸の身体を塗った五人のインディオがどやどやと出て来た。
「彼等はインディオですね」
「そうです。アマゾンを代表して、政府に陳情にやって来た様ですね」
「でも、あの恰好でですか?」
「ええ、彼らもアピールする手段が上手くなりましたね。あのパフォーマンスであれば大統領だって会わないわけにはいきません。それに、彼等は録音機を隠し持っています」
「録音機を? 何故ですか?」
「初めて国会議員に選ばれたジュルナと云う有名なインディオが最初にやった事は、首に大きな録音機を下げた事です」
「録音機を? どうしてですか?」
「彼は『白人は』と云いましたが、実は『政治家は』二枚舌だからと言って、常に録音したのです」
「なるほど、録音される方はたまったものじゃないですね」
「インタビューするジャーナリストまで愚かな事が問えず困っていました」
「あの恰好はインディオの正装ですか」
「そうです。それも、戦いに挑む正装です」
 中嶋和尚がそのたくましい半裸のインディオ達を眺めながら、
「西谷さん、あのインディオ達が『明王』に見えます」
「『明王』に?!」
「はい、丁度五人ですから『五大明王』ですね。私は、あのようなたくましくて実はやさしい『明王』が大好きです。小さい時から『観音さん』『お地蔵さん』そして『お不動さん』と呼んで親しみを持っていました」
「『五大明王』とはどう云う方ですか?」
「『五大明王』は『不動明王』を中央に東に『降三世(ごうさんせ)明王』、南に『軍荼利(ぐんだり)明王』、西に『大威徳(だいいとく』明王』、北に『金剛夜叉明王』と五方位に配され、『如来』さまや『菩薩』さん達を守る頼もしい仏界の戦士達です。その中心的役割の『不動明王』は『大日如来』さまの使者といわれ、字の如く『不動の守護者』、つまり、がんと一つの場所に居座る『守護者』です」
「中嶋さんはたくさん勉強されましたね」
「幼い頃から、祖父が仏の世界を面白、可笑しく語ってくれましてね。それで、仏の個々の特徴や生い立ちに興味を持ち、仏教大学では人一倍勉強したつもりでした。ところが、いじめの大王みたいな先輩に『頭デッカチの愚僧だ』と言われ、将来、僧侶になる自信までなくしてしまいました」
「そんな事ありませんよ、中嶋さんはとっても僧侶らしい方ですよ・・・。 話を聞いていますと、仏とは、『お釈迦』さまだけではないのですね」

image_print

こちらの記事もどうぞ

  • 手塚治虫の絶筆『グリンゴ』=ブラジル日系社会が遺作に(上)2020年9月4日 手塚治虫の絶筆『グリンゴ』=ブラジル日系社会が遺作に(上)  『火の鳥』『ブラック・ジャック』などの傑作を次々に発表し、存命中から“マンガの神様”と呼ばれていた天才漫画家・手塚治虫(1928―1989年)を知らない日本人は少ない。しかし、彼の未完の絶筆『グリンゴ』がブラジル日系社会をモデルにしていたことはあまり知られていない。 […]
  • 《ブラジル》眞子さま=公式訪問最終日にベレン=市場視察や地元日系人と交流2018年8月2日 《ブラジル》眞子さま=公式訪問最終日にベレン=市場視察や地元日系人と交流  ブラジル日本移民110周年のための皇室公式訪問最終日の28日、眞子さまはパラー州都ベレンの汎アマゾニア日伯協会(生田勇治会長)で行われた日系社会歓迎行事のほか、同地の日系人や日本移民とのご引見、ヴェル・オ・ペゾ市場の視察などをされた。式典には約230人が参加し、3回目 […]
  • ニッケイ俳壇 (852)=星野瞳 選2015年8月20日 ニッケイ俳壇 (852)=星野瞳 選    アリアンサ         新津 稚鴎冬日負い軍平胸像顔暗し首ふって歩く他なき時雨牛犬の嗅ぐ物より翔ちし冬の蝶どびろくや転耕とどむ術もなく土深く想思樹の実を植えにけり   セーラドスクリスタイス   桶口玄海児妻掘りし里芋どれも肥えて居し移民妻にある大望や芋の秋移民妻長生 […]
  • 連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(174)=完結2014年6月10日 連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(174)=完結  それから三年後、ローランジアで黒澤和尚から厳しい密教の指南を受け、印可状(認可証書)を授かった中嶋和尚は、サンパウロの東洋街の東の端に小さな『聖真寺』(架空)を創建、新しい宗派『聖宗』(架空)を開いた。 『ポルケ・シン』食堂を逃げ出し、修行に出た『聖観音』は、誤ってサンパ […]
  • 連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(71)2014年1月3日 連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(71) ニッケイ新聞 2014年1月3日 「いつのひにかかえらん」 『いつの、ひーにか、かえらん』 「やまはあおき、」 『やまは、あーおーき、ふーるーさーとー』 「みずはきよし、」 『みずは、きーよし、ふるさとー』 先駆者の霊が精霊となって現れ始め、見る見るうちに驚く程の数になった。 […]