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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(50)

ニッケイ新聞 2013年11月27日

「(そうでしたか。実は、我々もマラリアにかかり、体が衰弱し、食事はおろか水も口に出来ない状態になり、最後に脱水症状になってしまい、私はなんとか助かりましたが、多くの仲間を亡くしました。・・・、それで今回、その仲間達のミサをしようと)」
「(それで、トメアスに!)」
「(そうです)」
「(彼が牧師ですね。ちょっと身なりが違うなと思っていました。・・・、私の祖先はトゥッピナンバスと言って、アマゾン主流の、ここから一千キロ上流のサンタレンと云う街に事務所本部を持つ大きな部族ですが、ここでは祖先への弔いの儀式をしていません)」
「(軍曹も私の様に心残りがあるようですね)」
「(はい、いつも何とかしたい、と思っていますが・・・)」
「(じゃー、トメアスでミサを一緒にしてはどうですか?)」
「(いいですか?)」
「(ミサは仏教で行いますが、それでよろしければ)」
「(ここは大きなアマゾンです。だからブッダでもかまいません。ミサはミサです。是非参加させて下さい)」そう言って軍曹の顔が明るくなった。
「中嶋和尚、アナジャス軍曹がミサを一緒にしてくれと言っています」
「ミサとはキリスト教の礼拝行事でしょう?」
「彼は仏教のミサでもアマゾンでのミサだからかまわないと言っています」
「アマゾンだからですか・・・、面白い判断ですね。では、喜んで・・・」
「(喜んでミサを・・・)」
 アナジャス軍曹はそれを聞いて嬉しさで『プッ』と軽くクラクションを鳴らしてしまった。先行の護衛のジープが少しスピードを落とし、バックミラーて様子をうかがった。
【(のろのろするな!先を急げ)】とアナジャス軍曹は無線機に怒鳴ったが、きつい言葉とは裏腹になんとなく優しさが混じった口調であった。
「西谷さん、今、彼と『マラリア』と言って、その話をしていましたね」
「ええ、三十年前、彼や日本人の家族の多くがマラリアで亡くなりました。幼児は半数以上が亡くなりましてね。それは・・・、悲惨でした」
「マラリアって怖いですね」
「ほとんどがマラリアと云っていましたが、本当の原因はその他にありました」
「とは?」
「水と栄養失調です」
「水と栄養失調ですか?」
「幼い子供は細菌で汚染された水を飲み、大人は栄養失調で、それ等で弱った体はマラリアに耐えられませんでした」
「豊かな・・・、密林の中で、栄養失調とはどう云う事ですか?」

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