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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(55)

ニッケイ新聞 2013年12月4日

「それに比べ、日本仏教は、日本に渡来するとすぐに『極楽はこの様な素晴らしい所ですよ』と、現世に極楽浄土を再現させようと、朝廷の後押しもあって、奈良や京都に次々と素晴らしい寺院が建立され、美術品も次々と生まれ、極楽浄土をほうふつ;髣髴させる仏像、仏教絵画、仏具の高い芸術が生まれ、旧来あった神道のお祭り事もコラボして、人の心を癒し、民衆に豊かな想像力や慈悲の心を育んだのです。それと、経典が渡来し、文字によるレベルの高い文化が日本に顕れました。宗教の原理や道徳を正確に伝え、後世に残す為には文字が必要だったのです。イスラム諸国は聖典の正式統一言語としてコーランをアラビア文字で、カトリックやキリスト教はアルファベットの聖書、ユダヤ教はヘブライ語でモーゼの律法の旧約聖書、インドのヒンズー教や仏教はサンスクリット文字で経典となり、中国に渡って漢訳され、その漢字が使者となって日本に伝わったのです。宗教は文学だと祖父が言っていました」
「日本にとって、仏教渡来は文字の到来だったのですね」
「九世紀初期、空海や最澄等が仏教を通して質の高い文化を日本にもたらし、親鸞や日蓮に代表される十一世紀の僧侶達の努力で、文化の恩恵を受けずにいた民衆にも仏教が広まり、その時、民衆の為の日本仏教が生まれ、日本人特有の道徳心も形成されたのじゃないでしょうか」
「そうです! 中嶋さん、人種の坩堝と云われるブラジルに住んで、我々日本人のすばらしい特徴が分かりました」
「西谷さんが云うその特徴とは・・・?」
「世界でもっとも真面目で、誠実で、お人好しで、そしてバカな人種です」
「えっ!? その『お人好し』まではいいのですが、どうして日本人がバカなのですか?」
「我々日本人は『人間は正しい事をする動物として生まれる』と思っていますが、ブラジルでは『人間は悪い事をする動物だ。気お付けろ』と最初から思われています。だから、正直で、思いやりや正義が原因で被害者になった日本人をバカだと笑って、同情すらしてくれません」
「真面目で、正直がバカだと云うのですか?」
「そうです。殆どのブラジル人はハッキリそう言います」
「西谷さん、日本人でしょうか、それともブラジル人が正しいでしょうか?」
「日本人です。当然我々が正しいと思います。ですが、時々、正直いって、ブラジル人の考えも一理あるのではと迷う事もあります」
「日本人の良心が通じないのですか?」
「海外に住む日本人から見ますと、日本人は羨ましいくらい良心の持ち主で、平和で、それで平和ボケじゃないかと愚痴が出るほどです。日本政府に対しても、国際感覚に欠けているとか、国益を無視してまで真面目過ぎて、したたかさが足らず弱腰だとメチャクチャに批判する事がありますが、日本政府は戦争破棄を、恥かいてでも、バカにされても守ろうとしています。これは本当に素晴らしい事ですよ」

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