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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(86)

ニッケイ新聞 2014年1月28日

中嶋和尚は、何かを探すよう様に目をしっかりと開き、前方のどこまでも続く密林の風景に見入っていた。舗装工事の為の測量班が立てた目印の杭や、作業員が作った雨よけの小屋が点々と現れた。しかし、密林の中に仏様の存在を感じる事はなかった。

密林を強引に引き裂いて作られた街道に立ちはだかる大木が切り倒され、倒れる前よりも工事を邪魔していた。人間の侵入を拒否するかのように自然の抵抗がそこにあった。

二時間後、陽が昇り密林の底にも光が届き始めた。先頭車がパンクした。たかが木の枝と甘く見て乗り上げた年輪のない硬質の木の枝にオフロード用のタイヤの側面が引き裂かれていた。後続車は、そのジープの前方に回り、エンジンを切った。

静まり返った。今までエンジン音を抑制する為に減衰作用をしていた中嶋和尚の聴覚は感度を上げ、今まで聞こえなかった微風ですれ合う『サッ、サー』と葉の音、『ウオー、ウオー、・・・、ウオー』なにかの動物の遠吠え、『キ、キッ、キ、キ』鳥の鋭い縄張り宣言、『ヒュー、ピユー、ヒュー』メスを呼ぶ優しいさえずり、遠くで移動しているサルの群の騒ぎが密林の奥から襲ってきた。

感度を上げた中嶋和尚の聴覚に常識を超えた龍の叫びの様な大自然の雑音に、中嶋和尚は無我の境地と云うより、時の流れが止まったような歪みに陥って自分の存在を失い、心が揺さぶられ、身体の均衡を失った。

中嶋和尚はそれに立ち向かう様に、無意識で、

― 『仏説摩訶般若波羅蜜多心経、観自在菩薩行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色し色即是空空即是色、受想行識亦復如是舎利子、是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不滅、是故空中無色無受想行識無限耳鼻舌身意無色聲香味觸法、無限界乃至無意識界、無無明亦無無明盡乃至無老死亦無老死盡、無苦集減道無智無得、以無所得故菩提薩?依般若波羅蜜多故心無?礙故無有恐怖遠離一切?倒無想究竟涅槃、三世諸佛衣般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提、故知般若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上し呪是無等等呪能除一切苦眞不虚、故説般若波羅蜜多呪、即説呪日、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶、般若心経』 ―

― 『観自在菩薩行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子 色不異空空不異色色即是空空即是色、受想行識亦復如是舎利子、是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不滅、是故空中無色無受想行識無限耳鼻舌身意無色聲香味觸法、無限界乃至無意識界、無無明亦無無明盡乃至無老死亦無老死盡、 無苦集減道無智亦む無得、 以無所得故菩提薩?依般若波羅蜜多故心無?礙故無有恐怖遠離一切?倒無想究竟涅槃、三三世諸佛衣般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提、故知般若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上呪是無等等呪能除一切苦眞實不虚、故説般若波羅蜜多呪、即説呪日、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶、は般若心経』 ―

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