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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(153)

「三年前に不思議な経験をした。それで、可能ではないかと・・・」
「ジョージさん、その経験とは?」
「死んだ女が、中嶋さんよりも無謀で、俺よりも滅茶苦茶な男、オオハシと云う日本人をブラジルへ呼び寄せたんだ」
「死んだ女が日本人をブラジルまで呼び寄せたのですか?」
《だから、最初にあっしと出会った時、ジョージはちっとも驚かねーで、あっしの方が驚かされたってわけだ。で、その死んだ女がなんの為に?》
「窮地にあった恋人を助けようと、生の人間を日本から呼び寄せたんだ。それにもっと不思議な事が・・・」
「もっと不思議なこと?」
「アマゾンから来た特殊部隊のインディオ達が、助け出した男の魂を使って死んだ女の魂をこの世に呼び戻し、女を生き返らせたんだ」
《そっ、そんな事が人間界で出来るわけねーだろう!?》
「アマゾンは仏界や神界にとっても未知の世界だと思います」
「インディオの話では、限界は人間が勝手に作るもので、どんな事でも信じれば叶うそうだ」
「それは、仏を信じる事と同じではないでしょうか」
「だから、その力で森口を呼び寄せられないかと、・・・」
「おっしゃる通りです。仏さまを信じれば必ず思いをかなえてくれます」
《皆の願いと念力を合わせれば可能かもしれぬ》
「問題は森口にそれを受ける条件があるかどうかです」
《中嶋さん、その条件とは?》
「冥界との関わりです。冥界と霊界はほぼ同じ場所であり、悪霊もいます。ですから、森口に少しでもそのような傾向があれば、干渉は可能です」
《人を殺した森口は悪魔以上の悪霊を持っている。だから・・・》
「よし、条件は揃った。中嶋さん、早速!」
「場所はローランジアが最適です! ローランジアは『聖正堂阿弥陀尼院』との交霊が出来た所ですし、それに、密教の達人、黒澤和尚とのコラボも得られます」
《冥界側から視ても、千年前から有名であった印度のナーランダーと、シッコ・シャビエールとか云う霊信者がいたブラジルのウベランジアや最近有名になったローランジアがいい条件を持った所じゃ》
「ナーランジア?」
《ナーランジアではなくナーランダーはインドの『蓮がある場所』と云う意味で、五世紀から十二世紀まで世界最大の仏教大学があった所じゃ、十万の生徒、一千の教授が居て、三蔵法師もここで勉学に励んだ所じゃ。三蔵法師は、五年学び、五年教壇を勤め、六百以上におよぶ経典を中国に持ち帰った僧じゃ。今、インド政府がその大学を復活させようとしておるそうじゃ》
「その・・・、なぜローランジアが冥界で有名なのですか?」
《ローランジアは日本人僧侶、井手善一和尚が発見したナーランダーに匹敵する霊に優しい条件を持った冥界の新天地なのじゃ》


第二十九章 密教

 一時間後、慌しく古川記者運転のジョージの車はローランジアに向かっていた。助手席にジョージ、後部座席に中嶋和尚と小川、村山羅衆が同乗していた。
中嶋和尚が、
「村山羅衆、仏界が大変な事になるとおっしゃったのが気になります」

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