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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(76)

ニッケイ新聞 2014年1月10日

「このツマミは何処に置けばいいんだ」

「それは、あっちだ」

「こっちだ!」

各自がツマミ一品を持参した。誰かが大事に隠し持っていたスルメ五枚と『北海道産』と書かれた昆布を提供すると、珍しさで皆の注目を引いた。

祭壇は解体され、一時間足らずで宴会場に作り変えられた。

午後一時、宴会の準備が完了し、蜂の巣を突いた騒ぎは収まった。

中嶋和尚達が正面席に案内され、アナジャス軍曹も二人の兵も西谷の横に案内された。慰霊祭の時より参加者が大幅に増えていた。

全員が着席すると、静まり、二、三人が遠慮がちに咳をした。

一世を代表して多少右翼の遊佐が『君が代』合唱で大感激した赤い目を拭きながら立ち上がり、

「ええ、ただいまより、西谷さんの三十年前からの生還と、中嶋和尚によって、無事、先駈者の慰霊祭を終わらせた事を祝って祝賀会を始めます。ジュート栽培で貢献し、その後、レガトン船でアマゾン流域の交易の先駆者として活躍された。・・・、えーっと、それから、パンアマゾニア日伯協会の事務局長を長く勤め・・・、十年前、『アマゾン開拓、夢の如し』を執筆されて、それから、画家でもある、今年九十歳を迎えられたやすい;安井うちゅう;宇宙さんが、幸運にも旅の途中ここに泊っておられましたので、乾杯の音頭を取ってもらいます」

「では安井宇宙さん、音頭を」

「おっ、コップが空だ!」

「栓抜きはどこだ?」

「こっちはビールが足らないぞ!」

又、突かれた蜂の巣のように大騒ぎになった。

二分後、

「全員、いいですね。安井宇宙さん乾杯の音頭をお願いします」

「では・・・、祝賀会の、えー、音頭をー、取らしてー・・・、えー、取ら、取らさせてー、えー、もらいます」

ゆっくりした口調に待たされた参加者の半数が苛立ち、安井宇宙長老を指名した遊佐自身も後悔した顔になった。我慢ぎりぎりの線で、

「でー、では、カンパーイ」

それに応えて、参加者全員、

「カンパーイ!」と少し怒りが混じった大声で叫んだ。トメアスの日本人達は気が短いようだ。

肩をたたき合って泣き、子供の様にはしゃぎ、屈託のない笑い、本気で怒ってすぐ覚めるトメアスの日本人達を目の当たりにして中嶋和尚が、

「西谷さん、トメアスに来て、ほんとに良かったです。これは私にとって一生の思い出でになるでしょう。私達は今、アマゾンの密林の真っただ中にいるのですよね。そこにこんなにたくさんの日本人達が頑張っているなんて想像もしていませんでした」

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