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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(102)

ニッケイ新聞 2014年2月20日

「インディオの言葉で『魚がいない河』です。ですが、他の河に比べて少し少ないだけです。この河はパラナ大河に合流し、パラグアイ国境を流れ、アルゼンチンに入り、それからアルゼンチンとウルグアイの国境を流れ、ラプラタ河に合流し、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスをかすめて大西洋に出ます。蛇行して全長六千キロ近くです。今渡っているパラナパネマ河はサンパウロ州とパラナ州の州境を流れています」

「古川さん、この河の水が数千キロにわたり四ヶ国を旅してアルゼンチンの首都まで流れると云うのもロマンがありますね」

二百メートル程の州境の橋を渡ると一変した。

「古川さん! 光景が一変して・・・、両側の作物も変わりましたね」

「州政府によって政策が異なり、有利な作物も変わるのです。前方の黄金色に光って見えるのは小麦畑です。あの緑のジュータンは大豆畑、左側の茶色は収穫を待つトウモロコシです」

サイロがあちこちに立つ穀倉地帯を縫うように走った。

「中嶋さん、世界的な食糧危機なんてニュースを聞きますが、この地平線まで広がる穀倉地帯を見て安心しました」

「安心?」

「ええ、好きなうどんやラーメンが心配なく食べられるからです」

「!!?」

突然、街道が小さな町の中心に突っ込んだ。町の入口には二十センチ程の高さにアスファルトが盛られ、スピードを三十キロ近くまで落とさなければ車が吹っ飛ぶように障害物として設けられていた。

古川記者は急ブレーキを掛けたが間に合わず、車は大きく撥ね、二人とも「わぁー!」と叫びながらその人為的障害物を六十キロのスピードで通過した。

「ひで~! 中嶋さん大丈夫ですか?」

「大丈夫です。しかし、酷いですね。高速道路にあんな障害物を作るなんて・・・」

「五百メートル前から標識が有りました。うっかりして・・・。 ブラジルでは、この様に信号機がない小さな町は、街道沿いの交通の災禍から町民を守るためにあの様な『ケブラモーラ』を設けます」

「ケブラモーラ?」

「ケブラとは、『壊す』と云う意味です。モーラとはスプリングの事ですから、正に『車のサスペンション壊し』と云う恐ろしい名前ですよ」

「罠ですよあれは・・・」

「たぶん、たくさんの町民が亡くなったのでしょう。だから・・・」

最初のケブラモーラから二百メートル毎に他のケブラモーラが設けられ、合計で五箇所設けられていた。その最後のケブラモーラを低速で超えると町を通り過ぎていた。それから計算すると町の直径が一キロメートル程度である事が想像された。

「この町はカンバラと言ってマツバラ・サッカークラブがあるところです。このクラブはプロのセーリ・1(J1に匹敵)で活躍した時期もありました」

「松原とは日系のクラブですか?」

「そうです」

「しかし、こんな田舎町でよくプロチームがやっていけますね?」

「一度、松原氏を取材した時、同じ質問をしました」

「で?」

「町の全ての人がスタジアムに来てくれても、その観戦料はクラブの経費の一パーセントにもならないそうです」

「では、如何したのですか?」

「選手を育てて、サンパウロやリオの大きなサッカークラブへ売り飛ばし、その収益で成り立っています」

「へ~」

「それで、有名になり、近辺はおろか他州からも候補生が訪ねて来るようになったそうです。その点、楽になったと言っていました。日本からもJ1やJ2のクラブから練習生としてかなりの選手が来ていました。芝生の種類が違うグランドが四面あって、宿舎も立派なものです」

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