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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(163)

《オォ~!》小川羅衆の様な悲鳴は出なかったが、觔斗雲の加速度に驚きの声を上げてジョージの霊魂を背負った村山羅衆はサンパウロに飛び去った。
「霊性(スピリッチズム)の呪文の力も及ばず、森口の悪行は復活を始めました。ああっ! 気を失っている豊満な女に、森口が・・・、なんて淫らな行為なのでしょう・・・。うわぁ~、どうにかならないのか! ジョージと村山羅衆の到着が遅いです。もうとっくに着いていてもいい筈ですが、如何したのでしょうか?」
「村山羅衆にはジョージさんの霊魂が相乗りしていますから負荷が重く、エネルギーがもっと必要なのでしょう」
 腕時計をみた古川記者が、
「あっ! 後、十九時間で運命の時間が来ます!、このままでは絶体絶命です!」
 古川記者は悲観的なコメントをノートに書き始め、『悪の元』、『悪魔の勝利』それとも『悪魔の陰謀』にするか売れそうな記事の題名まで考え始めた。
 その時、本堂に一つ、二つ、三つとうす汚い幽霊が現れた。
 一見、うす汚い幽霊に見えたが、そうではなく、褐色に日焼けした肌に薄着のシャツを着た精霊達である。中には上半身裸の精霊も混じっていた。
また一つ、また一つ、宮城県人会の精霊と同じように中嶋和尚に向かって手を合わせ、宮城県人会の精霊団に加わった。
 古川記者が、
『なんだ、あなた等は?!』
《トメアスから来ました》
中嶋和尚のトメアスでの事情を知らない古川記者は目を丸くして、
『トメアス? アマゾンのトメアスから?』
《中嶋和尚から『尼尊先鋒拓団坊院』(あまぞんせんぽうたくだんぼういん)とすばらしい法名をいただいた第三トメアス移住団魂です。羅衆に志願して来ました》
 中嶋和尚が見覚えのある精霊が続々と現れた。
「祈祷を始めましょう」
 中嶋和尚と黒澤和尚は大勢の精霊のエネルギーを背に受け、密教の戦いの祈祷を始めた。
 トメアスから来た精霊が増えるに従って、サンパウロの森口の行動に大きな変化が現れた。
 怨霊や悪霊を食して悪魔に増殖した森口の動きが鈍くなった。しかし、迂闊に近づいた小川羅衆が森口に一喝され、吹っ飛び、壁を透過し、座敷の外に丁度到着した村山羅衆の足元に転げ落ちた。
《小川、なんだこの有様は》ジョージの声であった。
《ジョージ?! 見ての通り、森口は想像以上の悪魔に成長している》
 新しいエネルギーを得たローランジアでは、その様子が『天眼通』(てんげんつう)と『天耳通』(てんにつう)術を通して手に取るように見え、交霊通信も可能になった。
『村山羅衆! 御無事でしたか?』
《ジョージ殿が持つ怨念霊で気分が悪いです。彼に早く出てもらいたいのですが》
《ジョージです。まだアレマンが現場に着いていません》
『ジョージさん、今、村山羅衆から出ると魂が行方不明となり危険です』
《アレマンの身体に乗り移るにはどうすればいいかを・・・》
『彼の了承を受ければオッケーです』
《分かりました》
 五分後、
《アレマンが着ました。(アレマン、俺だ)》
ジョージの声にアレマン刑事は空気を掴む様な気持ちで、
「(ウエムラ刑事?)」
《(俺の魂はお前の身体が必要なんだ)》
「(!?)」
《(心配せずに『承知した』と言ってくれ)》
「(? 『承知、・・・、しま、した』こう言えばいいのですか?)」

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