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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(144)

ニッケイ新聞 2014年4月26日

「獣ならどう行動するか考えていると、俺の瞼に手を振るお前が映た」
《幸運な再会だった》
「さて、森口を捕えに・・・」
再来週までこの世に留まる事になった小川羅衆とジョージは、新米刑事達を従え、森口が潜んでいる一番奥の個室に向かった。鍵が壊れたその個室の前に落着かない中年の男がいた。それを見た小川羅衆が、
《先輩! こんなところで何を?》
《おぬし、何所をさ迷っておったのじゃ、苦労したではないか!》
《先輩こそ、なぜブロジルまで? 心配しねーでと言ったじゃねーですか》
《なんでござる、この匂いは?》
《浮易好気(ウイスキー)とか云う南蛮麦焼酎をちょっとばかり、それから、現世の人間に付き合って・・・》
《現世の人間と何をしておったのじゃ?》
《いや、何でもありーしません》小川羅衆は胸を撫で下ろし、
《村山羅衆こそ、何しにここへ?》
《ブラジルで人間共が『聖正堂阿弥陀尼院』と約束事をしおった事じゃ》
《『彼女は安心して三途の川を渡る』って連絡したじゃーねーですか》
《そんなのん気な事言っている場合ではない。それが原因で仏界が大騒ぎしておるのじゃ》
《仏界がなんでてーへんな事に?》
《『聖正堂阿弥陀尼院』と俗界の人間共が約束を交わした事で、お地蔵さんの話によれば、これは前例がなく、もし、約束が守られなかった場合、どんな問題が起きるか分からぬそうじゃ》
《それが、てーへんな事ですか?》
《それに、我々の仕事を人間共が肩代わりしようとしている事だ。これは明らかに仏界に対する人間の挑戦だと拙者は思う。いったい、我々の立場はどうなるのじゃ、困っている霊の面倒見るのは拙者共の役割ではないか!》
「その幽霊を紹介してくれ」
《情事、先輩が見えるのか?》
「見える」
《あっしといつも二人組みで活躍する、老練羅衆の村山殿だ》
《村山羅衆でござる。そなたがジョージ殿か、おぬしの事は、既に、お地蔵さまの耳に入っておる》
《先輩はいいときブロジルに来ましたね。冥界のあっしと俗界の人間との通路が情事を介して確立されておりますから》
《おぬしにそんな器用な事が出来るとは・・・、それから、なんだその『情事』さんとは! 『ジョージ』さんと呼ぶんだ》
《えっ、てっきり『情事』と勘違いしていました、少し可笑しいとは思っていましたが、あっしは横文字が大っ嫌れ―で・・・》
《人の名前ぐらいはちゃんと横文字で呼ぶのじゃぞ!》
《分かりました》
《どこで、どうしてジョージ殿との接触出来たのじゃ?》
《サンパウロ市の空港に着いたあっしをジョージが車に乗っけてくれましてね》
「勝手に乗りこんだくせに」
《ジョージ殿は拙者達に敏感に反応する信心深い人でござろう》
《ジョージはそんな人間ではなく野蛮ですぜ》
ジョージが苛立って、
「そんな事は如何でもいいでしょう。急ごうじゃないか!」
《まぁー、そう急がず。勘弁してくれ。急いで来たもので拙者は疲れておる。もう少し待ってもらえぬか》
「幽霊がこんなにのん気だとは・・・。それに幽霊が疲れるとはしらなかった」
《ジョージはあっし等がハッキリ見えるんでござんす》

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