ホーム | 文芸 | 連載小説 | 日本の水が飲みたい=広橋勝造 | 連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(149)

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(149)

 鍵穴から入った小川羅衆は、そのろうそくを消した。
「?」中嶋和尚は何かを感じたが、又、ろうそくに火を点けると、《フ~》炎がゆれて消えた。
中嶋和尚は全神経を集中して、
「誰ですか?貴方は」
《中嶋和尚!》
中嶋和尚は霊性を感じたが、小川羅衆の霊体を掴めなかった。
《如何したら話せるだろうか。彼に呪い移ると彼と話すのは不可能だし・・・》
 その時、『ピンポン・ピンポン・ピンポン』とチャイムがなった。明らかに古川記者である。
「古川さん、どうぞ」
「ジョージ帰った?森口の事を知りたいのだが・・・」
「いえ、未だです」
「如何しました?中嶋さん、心配顔で・・・」
「今、このアパートに霊を感じまして・・・」
「あっ! きっと、樋口さんが私の取材に応じ・・・」
「いいえ、別の・・・、意地悪そうな、ろうそくを消したり、いたずらします」
《『意地悪な』俺か、う~ん、如何したら話せるか・・・、そうだ!》
 小川羅衆は、暑がりで汗を拭いている古川記者の身体に飛び込んだ。
「そう云えば急に、ヒヤ~と寒くなってきまし・・・た。《中嶋和尚! 私は意地悪な霊です》」
「あっ、古川さん、じゃなくって、その~、貴方は誰ですか?」
「《小川と申します。ジョージと一緒に森口と云う悪者を捕らえようとしている羅衆でござんす。お願げーです。このまま古川さんに呪い移ってジョージの所へ案内しますから、一緒に来ておくんなせー》」
「あっ、はい、承知しました」
 古川記者に呪い移った小川羅衆は五越商店の前まで、中嶋和尚を案内した。
「中嶋さん、どうやってここに?」
「古川記者に呪い移ったラッシュ、とか云う霊に案内されて来ました」
「彼等を紹介します。こちらが・・・」
《村山羅衆と申します》
「ジョージさんに紹介してもらうと、彼が薄っすらと見えるようになりました」
「こちらは、古川さんに呪い移った・・・」
《小川です》
 そう言いながら、小川羅衆は古川記者の身体から抜け出した。
 古川記者は、二度の体温の急変に心身共にダメージを受け、五越商店の入り口の段差に腰を下ろしてしまった。
 不安そうに中嶋和尚が、
「古川さん大丈夫でしょうか?」
《大丈夫です。五分もすれば・・・。拙者共は『羅衆』と申す》
「最高の修行僧に与えられる称号『羅漢(らかん)』は知っていますが、『羅衆(らしゅう)』とは?」
《妖怪や幽霊と区別するために、お地蔵さまが『救霊羅衆』と命名され、冥界の面倒をみる霊です》
「如何して俗界に?」
《お地蔵さまに緊急召集され、使いとして来たのじゃ》
「なにしに?」
《迷った霊が人間と勝手に約束を交わしおったからでござる》
「それは、樋口さんと私達の事ですね。勝手にしたのではありません。助けを求められたからです」
《だが、樋口の問題は、冥界の責任で解決しなくてはならぬのじゃ、それは既に樋口は仏名を授かっておるからだ》
「ですが、樋口さんを放置していたではないですか、それで彼女は・・・」
《いや、『聖正堂阿弥陀尼院』は順番が待てず勝手に逃げ出したのでござる》

image_print

こちらの記事もどうぞ