ホーム | 日系社会ニュース | 長岡京市長岡中=本紙教材に使い地理の授業=元JICAボランティア 宮沢之祐教諭が考案=半頁を4時間に膨らませ=「日系社会で多文化伝える」

長岡京市長岡中=本紙教材に使い地理の授業=元JICAボランティア 宮沢之祐教諭が考案=半頁を4時間に膨らませ=「日系社会で多文化伝える」

 京都府の長岡京市立長岡中学校で、一風変わった地理の授業が行われている。子どもたちが一心に見つめる教室のモニターに映されたのは、なんとニッケイ新聞。初めて見る南米の邦字紙に驚く生徒らに、同校教諭で元JICA日系社会青年ボランティアの宮沢之祐さん(しゆう、50、京都)は「ブラジルの中で少数民族である日系社会が育んだ日本語新聞。それを通して多文化の意味を実感してくれたらいいと思った」と発案動機を説明し、自身のブラジル体験を生かして日系人の歴史を生き生きと伝えた。南米とは普段縁遠い京都の生徒たちは何を感じたのだろうか――。そのユニークな取り組みをメールで取材した。

 「地理教科書の南アメリカ州のところに、半ページほど日系人についての記述があり、そこを入口にした」と宮沢さんは語る。教科書にあったのは移住の歴史を背景にした多文化、モノカルチャー経済からの脱出、アマゾンの環境問題などに触れたわずか半ページの記述だった。それを計4時間の授業に膨らませ、昨年度1年生(現在は2年生)の授業として3月頃に行った。
 ブラジリア遷都に際し、食料確保のため日系農家が呼ばれた逸話を紹介するなど様々な場面における日系人の活躍に触れた。宮沢さんは99年から01年までJICA青年ボランティアとしてブラジリアのモデル校に赴任しており、日系社会は身近な存在だった。元々教員をしていたが、神戸新聞に採用されて社会部記者となり、現役のまま同ボランティアに参加、帰国後も論説委員などとして同紙で活躍した。その後に教員に戻り、豊かな社会経験を生かして教壇に立っている。
 今回は「日本ではヘイトスピーチ(外国人排斥言動)が強まっているが、多様な民族が共生し、それぞれの文化を大切にすることの意味を考えさせたい」と考え、日系社会を取り上げた。「京都はデカセギも少ない地域なので、生徒は日系社会について関心が薄い」と、実物の邦字紙を使ったり、本紙編集長のコメントをプリントに載せたりと関心を持たせるよう工夫した。
 生徒らは日本の新聞との規格の違いや、W杯施設の建設遅延の記事などに関心を示していたという。最終日に感想を書かせると、「日本独自の文化を少しでも守って、日本を忘れないでほしい」「色々な生い立ちがある。個人の意見や思いを大切にすればいい」など多様な意見のほか、「日本でも、きゅうくつなことなく外国人が暮らせたらいい」「母国の言葉は大切な宝物。学ぶことで世界観も広がる」など、在日外国人の立場を思いやる意見も出た。
 4月には感想をまとめたものを教材にし、持ち上がった新2年生に初授業を行ったという。宮沢さんは「こうした点に目を向けた感想もたくさんあって、よかったと思う」と授業の成果に満足した様子だった。

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