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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(154)

《先輩、てめぇーもです》
 いつも真剣な村山羅衆はもっと真剣な顔で、
《今は宗教界が冥界の霊権を維持しておるが、人間界に平和が続くと不思議と魔界支持が台頭し、今回の霊と人間との約束事のような些細な事でも、我々宗教界への支持が下がり、ねじれ霊権となりかねないのじゃ》
「こんな些細な事で?」
《今回の約束事が失敗すると、霊権を狙っている魔界が仏界の行政怠慢と宣伝し、好気運唾流(スキャンダル)に発展し、宗教界にも魔界にも属さない多くの精霊や羅衆達が魔界を支持し、人間界に不幸をもたらすのじゃ》
「不幸とは?」
《合戦、今の言葉で戦争じゃ。戦争は悪魔が宿った独裁者の煩悩、その中でも一番始末が悪い欲望によって起こる現象で、今の人間界には欲望に狂った人間共が増えてきておる》
《その、例がジョージですね》
《小川羅衆! いい加減にしろ! 慎め! ジョージ殿は立派な宗教界の支持者であり、それも理陀(リーダー)であるぞ》
「悪魔に唆される羅衆も中途半端な霊の集まりだな」
《我々羅衆は、今まで地球上で亡くなった人間の積算量で数が膨大でまとまりが無いのじゃ。それに、今、ある宗教が大変な事態になっておるし、我々仏界の羅衆だけでもまとまらなければならぬ》
「ある宗教とは?」
《ある地域では、人間に変身した悪魔が人間に泥(テロ)行為を煽っておる。この様な時代だからこそ、今回の約束事が失敗すれば危ないのでござる》
「そんな大袈裟な」
《約束事を解決しておかねば、彼女が三途の川を渡るか渡らないかで大きな好気運唾流(スキャンダル)に発展し、大騒ぎになるのじゃ》
「ニ七日、初江王が三途の川を渡るか渡らないかお裁きになりますね。それがどうしてスキャンダルになるのですか?」
《三途の川のほとりに奪依婆(だつえば)と云う厄介な鬼婆がいて亡者の衣類を剥ぎ取り、その奪い取った衣類を依領樹(えりょうじゅ)の上にいる懸依翁(けんえおう)に渡し、その時、この二鬼の奪依鬼(だつえき)達が、裸になった亡者の不自然さを見破れば騒ぎ立てるのだ》
「騒ぎと云っても、たった二匹の鬼だろう?」
《ジョージ殿はそう言われるが、二鬼だけではなく、同じ様な羅刹女(らせつにょ)と云う鬼女、閻魔大王に仕える虎パンで有名な赤鬼と青鬼、森に住む三鬼衆の夜叉達、死者を食らう夜叉の荼吉尼天(だきにてん)、修行を怠け仙人になりそこなった天狗、河に捨てられた河童、と思い出すだけでもゾッとするくらいの数の怪鬼達が騒ぎたてるのでござる。それは諸天部さまが集まっても鎮める事は難しく、そうなれば修行が足らない小川羅衆の様な羅衆達が大混乱に陥りもうす》
《先輩、てめぇーは大丈夫ですよ》
中嶋和尚が村山羅衆の話しに頷きながら、
「羅衆達をコントロール出来ないのでしょうか?」
《羅衆達を時代毎にまとめる理陀の天部は仏教に帰依した古代インドの妖怪や悪神であった。それで・・・》
「天部の名前はサンスクリット語の発音を漢字に音訳したものですね」
《彼等は、当時生身の人間であったお釈迦様から直接説法を聞いて仏教に帰依した事で、当時のお釈迦様と同じ人間がヘマをすると仏教に対して不信を抱くのだ。だから、最悪は、せっかく天部にまで昇格した古代インドの悪神が影響を受ける事でござる》
「天部さま達は大丈夫ですよ」

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