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講演を行う新井さん
講演を行う新井さん

日本食産業の真の国際化を=JRO南米初のシンポ開催=(上)=関連企業進出で市場活性化へ=「現状、寿司と言えないものも」

 世界における日本食市場の活性化を図る「日本食レストラン海外普及推進機構」(JRO、2007年7月設立、本社東京)が9月19日、サンパウロ市ホテルで南米初事業となる「日本食シンポジウム」を開催し、飲食業界関係者約150人が出席した。シンポを皮切りにネットワークを構築し、日本食の理解と市場拡大を後押しすることで、農林水産物の輸出促進を図る狙い。農水省水産庁漁政課長の新井ゆたか氏が基調講演を行ったほか、当地の飲食業界関係者を招いて討論会が行われ、物流体制や人材養成システムの構築の必要性などが確認された。

JROの加藤専務理事

JROの加藤専務理事


 シンポは新井漁政課長による基調講演「寿司と日本産水産物について」で始まり、寿司の発祥から1960~70年代の寿司ロボットや回転寿司の登場による大衆化までの流れ、寿司の海外普及について説明があった。
 世界で最も好まれる日本食のトップは寿司と刺身で、当地と同様、伝統的なものから現地食と融合したものまでが出回っている。味の良さ、ヘルシーさ、種類が豊富で気軽に食べられることなどが人気の要因という。
 テマケリアでクリームチーズ入り手巻きを試食したという新井さんは、「日本では考えられない味だけど、店は女性の入りも良いので、この文化は日本に持って帰りたい」と食文化の逆輸入にも意欲を見せた。
 その一方、当地の寿司ネタはマグロ、サーモンが主流で多様性に欠けるため、「こちらで入手できない魚は日本から輸入し、バラエティを広げて頂きたい。そうすれば寿司文化がもっと広がる」と輸入を薦めた。10年間で農水産物の輸出を2倍にすることが目標という。新井さんは「食文化は各地の文化と共に変わっていくもの。でも、まずは伝統的な味を知った上で、創造的に寿司文化を広げてほしい」と講演を締めくくった。
 JROの加藤一隆専務理事は「日本食がもたらされて100年経っているのに、産業として成立していない。一世が始めた日本食店も韓国人や中国人に売られ、人材の基盤が崩れている。全く寿司といえないようなものまで出回っている」と手厳しい印象を述べた。「衛生管理に関する本のポ語訳をしたり、寿司職人を養成するルールを作ったりし、基本的な教育ができるよう早急に手を打たないと」と語る。
 職人だけが個人的に海外進出する例は数多くあるが、加藤専務理事は「関連企業も一緒に参入するのが本当の国際化」との考えだ。この事業は、海外日本食店を活性化することで市場を形成し、そこに日本食文化や関連産業を丸ごと輸出するというオールジャパンの取り組みといえる。食という吸引力で日本への関心を育み、観光客増も狙うという。
 JROは農水省の「日本食レストラン推奨計画」を受けて設立した民間有志による団体。世界の日本食レストランを通じた日本食・食材の市場開拓を目指し、同計画を主導する。これまでに日本国外21都市・地域に日本食関係者のネットワークを構築し、各国でレストラン向けの商談やセミナー、シェフの訪日研修、各種料理学校への日本料理コース設置の支援などを同省と一体となって実施している。(つづく、児島阿佐美記者)

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