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再選を祝うジウマ大統領とルーラ元大統領(Foto: Ricardo Stuckert/Instituto Lula)
再選を祝うジウマ大統領とルーラ元大統領(Foto: Ricardo Stuckert/Instituto Lula)

政権交代はなぜ起きなかったか=なりふり構わぬ選挙攻勢=反ジウマ派の勢いの限界

 13年6月のコンフェデ杯時に世界を驚かせた全国的なマニフェスタソン、景気停滞、そして連立与党が絡んでのペトロブラス超大型汚職…。ここまでのマイナス要因がありながらも、労働者党(PT)のジウマ政権は選挙で再び選ばれ、継続することを決めた。特に13年の抗議行動に強烈な印象を持つ人は「なぜ、そんなことが」と思う人も少なくないだろう。大統領選の背景やその後の水面下の動きを探った。

団結欠いた「反ジウマ派」

選挙期間中のアエシオ候補(Foto: Orlando Brito/PSDB)

選挙期間中のアエシオ候補(Foto: Orlando Brito/PSDB)

 今回、政権交代が起こらなかった理由の一つに、「反ジウマ派」が全く異なる2方向に分散してしまったことがあげられる。PT政権は左派だが、今回「アンチ・ジウマ」として反応したのが、「保守化したPTに幻滅した、より左寄りの改革を望む、主に若い人たち」と「かねてからPTに反感を持つ、企業家寄り、裕福な年配の層」の二つに割れてしまった。
 その二つが「政治浄化」のために一致団結することは最後まで出来なかった。改革派の期待を背負ったマリーナ・シウヴァ氏(ブラジル社会党・PSB)が一次投票で敗れた後、民主社会党(PSDB)のアエシオ・ネーヴェス氏を支持した際、反ジウマ派が必ずしも「政権交代のために一致団結」とならず、「一時の便宜のために政治理念を変えた」との否定的な反応も目立った。一次投票で敗れた候補者たちが、続々とアエシオ支持に走っていった流れは確かにあったが、過半数には達しなかった。

南米で進むチャビズモの波

 欧米全体の基準から見れば、特にキリスト教右派などとの結びつきはなく、軍政支持派でもないPSDBはそれほど「右寄り」には入らない。だが、伯国の場合、昨今の欧米諸国のようなモラルや宗教を基にした左右の判断ではなく、依然として「富裕者寄り=右」、「貧困者層寄り=左」といった、社会主義国が機能していた時代の左右判断がいまだに強く残っている。
 今回の大統領選でPTはその点を絶妙に突いてきた。ジウマ氏や前任のルーラ氏は、PT政権の売りである社会政策「ボウサ・ファミリア」「ミーニャ・ヴィーダ、ミーニャ・カーザ」などの恩恵に預かっている人(貧困層)が多い北東伯で、「PSDB政権になれば、その政策が奪い去られるかもしれない」とほのめかし、アエシオ氏やカルドーゾ元大統領をナチスや聖書上の悪人と比べることまでキャンペーンで行った。
 ルーラ氏は2002年の大統領選に当選した際、社会主義者的イメージで反対キャンペーンを張られ、苦しんだ。当選を果たした際、ルーラ氏は「期待が恐怖に打ち勝った」と語り有名となった。今回の選挙でPTが行ったことは、まさにアエシオ氏やマリーナ氏といった対抗馬に恐怖感のイメージを与えることだったのはなんとも皮肉だ。
 PTが選挙戦の際に取ったこれらの戦略は、南米の他の左派の国で起こっているものに似ている。貧困層には絶大な支持を得てはいるものの、政敵には容赦ない罵声を浴びせ、汚職の指摘や経済の停滞など、自分たちに不利な報道をするメディアに対しては規制に走る。
 この方法論は、ベネズエラでチャベス元大統領が行ったやり方、アルゼンチンのキルチネル政権やボリビアのイヴォ・モラレス政権にも見られがちな傾向だ。いみじくもマリーナ氏は選挙キャンペーンの頃に「伯国内にチャビズモが蔓延しはじめている」と指摘していたことでもある。
 PTにチャビズモ的な傾向が指摘されていたにも関わらず、それが必ずしもネガティヴに取られなかったのは、まだベイビーブーマー(日本で言うところの団塊の世代)や学生のあいだでPT=「軍事政権と戦った闘士」のイメージが残っていたこともあるだろう。
 皮肉にも、学生運動の闘士だったジョゼ・ジルセウ元官房長官らはメンサロン事件で実刑判決を受けたし、PTが政権をとった後はジョゼ・サルネイ元大統領やパウロ・マルフ元聖市市長などの「軍政政治家」と結びつきのある党になっているが…。


2015年以降の展望

 大統領選で勝利したとはいえ、その得票数はわずかに52%対48%の差。1989年に国民投票の大統領選が復活して以降、最小の得票差となった。
 議会では、憲法改正に必要な3分の2の議席確保はできなくなり、相次ぐスキャンダル報道に、国民の連邦政府を見る目も厳しくなっている。
 それもあり、当選後、ジウマ大統領から勝利に酔ったような浮かれた発言は聞こえてこず、第2次政権に対しての準備を慎重に行っている段階だ。その第一段階としてジウマ大統領はジョアキン・レヴィ氏を財務相に据えた。同氏はルーラ政権時に国庫局長をつとめ、財政切り詰めを行った人物で、PTが持ち味とする社会政策への支出も節約することも辞さないとも言われている。
 このレヴィ氏の就任を指して、アエシオ氏は「KGBにCIAの捜査官が入り込んだようだ」とも皮肉ったが、ジウマ大統領としてもGDPの低成長が続き、信用格付けもランクダウンの危機がある中、背に腹は変えられない状況だ。
 13年のマニフェスタソンの頃に大統領が発足の宣言を行いながらも、議会の猛反対で成立に赤信号が点っている「国民投票制度」の設置も気になるところだ。
 その一方、野党側が次の4年でどう出るかも気になるところだ。政権奪回にもう少しだったPSDBは、アエシオ氏の地盤のミナス・ジェライス州や、ジェラウド・アウキミン氏の聖州での水不足問題の解消が、18年大統領選で足を引っ張られないための不可欠の課題だろう。まずは16年の全国市長選が大事だ。
 マリーナ氏をはじめとした、改革派の左翼勢力の出方も注目される。マリーナ氏は、13年に発足し損ねた自身の党「持続ネットワーク」を改めての立ち上げて地盤強化を狙いたいところだ。また、急死した元大統領候補のエドゥアルド・カンポス氏の遺志を継いだパウロ・カマラ・ペルナンブッコ州知事をはじめ、市長、知事に若手政治家を多く抱えるPSB、そして国民の「誰に投票してよいかわからない」の心情に答える形で、大統領選で意外にも4位となったルシアナ・ジェンロ氏(社会主義自由党・PSOL)の行方にも注目したいところだ。(沢)

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