樹海

 阪神淡路大震災から20年。我が家はあの年、日本で年を越し、次女の妊娠を確認した後、震災前夜の16日夜、伯国に戻る飛行機に乗った。何も知らずに伯国の空港に着き、迎えに来た人達から「大丈夫だったか」と訊かれて戸惑った事も思い出す。17日のNHKの特別番組であの年に生まれた人が成人式とも聞き、時の流れを感じた▼聖市でも20回忌の法要が行われたが、そこで配られたのりの袋に〃漁業者が北風吹きぬく寒冷の海で丹精込めて作った風味豊かな「兵庫のり」〃と書かれているのに気がついた▼目を引いたのは「寒冷の海」という言葉だ。和紙は冬の寒い時期に漉いたものの方が品質が良いと言うし、美濃地方では1月に和紙の原料のコウゾの皮を川にさらして漂白する「寒ざらし」という習慣があり、この作業が品質を裏付けるとの記事を読んだ事もある。凍り豆腐や凍み豆腐も厳しい寒さが作り出す一品だ▼阪神淡路、東日本などの大災害が寒い最中に起きた事は当地にいても痛みに感じたし、脳卒中を誘発したりもする寒さは嫌われる事も多い。だが、春の暖かさは冬の寒さの後だからこそ喜ばれるのであり、寒さが生み出す美や芸術もある▼昭和54年に流行った海援隊の「贈る言葉」という曲には、「悲しみこらえて微笑むよりも涙かれるまで泣くほうがいい 人は悲しみが多いほど人にはやさしく出来るのだから」というくだりもある。悲しみや苦しみは辛い。だが、それを経てこそ得るものや見えるものがある。阪神淡路大震災などを経験した方達の人生は寒さの中で作られる味や芸術同様、静かな輝きを発していると信じたい。(み)

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