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ニッケイ俳壇(834)=星野瞳 選

『マリタカ』はブラジルに生息するオウム目インコ科の鳥(Foto By moi-même (Own work) [Public domain], via Wikimedia Commons)

『マリタカ』はブラジルに生息するオウム目インコ科の鳥(Foto By moi-même (Own work) [Public domain], via Wikimedia Commons)

   セーラドスクリスタイス   桶口玄海児

 マリタカの一群茘枝の畑に来る
 若い者に足らぬおやつや畑日永
 マンガ樹にマリタカの群今日も来し
 西瓜切る九人の子供皆育ち
 雨降らす木のある村に喜雨至る

   北海道・旭川市       両瀬 辰江

 温かや鍋焼うどん麺太し
 雪の夜夢の中にて夫無口
 日脚伸ぶ心ひろがる思ひして
 雪の朝仕事始めは道を掃く
 冴返る明日の寒さに星を見る

【もう卆寿の御歳かと思うがお元気そうで必ず俳句送って下さる。それも極寒の北海道からだ。厚く御礼申し上げます。】

   愛知県・弥富市       森  寿子

 寒林の雪ふかぶかと眠り居り
 餌欲りてテラスにも来て寒からす
 椰子の葉に月あそばせて夜もすがら
 明日知れぬたつきに耐えて春を待つ
 地の涯のうぶすな訪わん幾年ぞ

【作者はアサイ生れの二世。日本に出稼ぎに行って居る娘夫婦に一人の孫があって、その孫の守りに行って居る。孫は何千人に一人と云われる進行性ジストロフィを病み、筋肉が徐々に消えていく身になっている。今愛知の国立病院に連れて来て奇跡を待ちつつ頑張って居ります。作者がブラジルから日本へ行ったのは二〇一二年になるが、ブラジルに残してまた御主人にも相済まぬと手紙にあった。実に気の毒だ。】

   ボツポランガ        青木 駿浪

 新涼の時を逃さじ庭掃除
 何もかも残暑の故に怠れり
 秋めきて心は妻の看護かな
 心願の写経の窓に柿青し

   サンパウロ         武藤  栄

 馬肥ゆる牧主連合のシュラスコ会
 見事なる移民農業稲の花
 馬肥ゆる軋む荷馬車の輕く行く
 秋の海記録保守者の練習場

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

 クアレズマバス停留場来る目印に
 帰りさうにない空浮雲を浮かせつつ
 秋入りの一枚重ねて歩く
 窓開けてしのげば夏の暑さかな

   グアタパラ         田中 独行

 新涼の雨も電気値上げとか
 新涼に曇るバイクのヘルメット
 緑陰に息ととのえて鍬引きぬ
 音も無く一と節の雲天高し

   ジョインヴィーレ      筒井あつし

 身に纏ふすべて捨てたき残暑かな
 十四年待たせて香おる金木犀
 カーディガン持って旅立つ今朝の秋
 蜩の鳴いてボスケの夜明けかな

   ソロカバ          前田 昌弘

 紅葉かと見れば病葉朱に染まり
 出水跡わざわざ見に行く物好きな
 止まりそでなかなか止まらぬ秋の蝶
 警笛の絶えざる街路霧ぶすま

   サンパウロ         湯田南山子

 若き日の辛苦想ふや月見草
 生き残りポ語を話せぬ老移民
 延命てふ日本茶到来青葉風
 白虎隊の道跡侘しや柿の秋

   サンパウロ         寺田 雪恵

 サビア来てプールの虫をさっと取り
 たそがれの思考みだして鳥さわぐ
 しっとりと椰子の並木に夏終る
 水平線続くミナスに旅心

   サンパウロ         武田 知子

 絹が好き木綿が旨しと新豆腐
 郷愁は味覚にもあり菊膾
 気ままとは纏とふ淋しさ身にも入み
 雛の日や戦火で失せし昭和の代

   サンパウロ         児玉 和代

 秋雨となりて雨乞ふ町濡す
 時ずらし出ても詮なき残暑かな
 秋めきぬ夜のとばりに衣重ね
 話さずに聞いてばかりの夕端居

   サンパウロ         西谷 律子

 足元に吾が影添ひぬ残暑かな
 木下闇トロンバひそみ居るような
 こみ上げる哀しみこらえ髪洗ふ
 雲に入り雲から落ちて夕焼けぬ

   サンパウロ         林 とみ代

 秋めくやギター奏づるメトロ口
 幾山河越え来し果の秋思かな
 頬染めて紅葉並木くぐりけり
 ヤッホーのやまびこ清し秋の山

   サンパウロ         新井 知里

 夏深しギックリ腰をかばいつつ
 初期移民もち来桔梗燦と咲き
 病葉や犬も夫も歳重ね
 風の声秋の訪れ教えくれ

   サンパウロ         竹田 照子

 病葉の黄に想ひ出重ね見る
 鉢植の棉の花見し街の角
 冷ぞうめんすすれば暑さ遠のきぬ
 クローバーの苗花この世の星の如

   サンパウロ         三宅 珠美

 体力も気力も衰えこの残暑
 差し入れのケーキ夜なべも一段落
 捨て鉢におのれ咲きして草の花
 薬味などいらぬ旨味や新豆腐

   サンパウロ         原 はる江

 俳縁の友皆やさしホ句の秋
 荒む代の心和ごませジャカチロン
 立ち姿白百合に似し人は亡く
 南天の葉も赤らみて秋来たる

   サンパウロ         玉田千代美

 ゆったりとしずかにほぐる水中花
 滝音に残暑の息をもらいけり
 夏暑し紙人形もうす着させ
 老いて尚おしゃれ心に夏帽子

   サンパウロ         山田かおる

 つまずきつ転びつ辿りつきし卆寿
 バラ一輪もらったうれしさ女性の日
 月下美人咲いて娘を呼ぶ大声で
 女性の日家事することを免がれて

   サンパウロ         平間 浩二

 採り立ての間引菜浮べすまし汁
 雨に濃く大阪橋のクアレズマ
 香ばしき郷愁さそう桜餅
 秋灯を消して一と日をかえりみる

   リベイロンピーレス     中馬 淳一

 雨降らず赤い毛髪枯れミーリョ
 選ぶかに二匹のとんぼ杭一本
 碧空にまさる朝顔紺深し
 風強く雨をともない残暑かな

   アルバレスマッシャード   立沢 節子

 百メートルのハウス栽培トマト捥ぐ
 カルナバル手の平程の衣装つけ
 氷水につけしそうめんおかわりす
 冷し酒レモンを浮かして夫と酌む

   サンパウロ         佐古田町子

 苦も楽も味わいつくして老うらら
 身心のほぐれる雨音朝寝かな
 アマリリスしばらく迷いて赤を買う
 雨あがりあじさい生きて生気満つ

   サンパウロ         松井 三州

 新年やカラオケ婦人皆元気
 今は亡き友等と夜明かす松の内
 弾き初めは音のみは良きビオリーノ
 弾き初めは忘れるものかアコーディオン

ある年(二十年程前)の一月、私はペルーのマチュピチュの空中都市の山上に居た。日本人の旅行者が沢山居られた。その方達に此処で俳句会を催したいが、一緒にどうでしょうかの呼びかけに二十四人の人達で句会をした。此の句会は未公表になっていたのを思い出して発表して居ます。

   サンパウロ               星野  瞳

陽を神と崇めし民に初日出づ
インヂアの初髪長く野花差し

   ブラジリア セラード農業研究   異儀田和典

春時雨インジオと石組壁濡す
亡びたるインカも見たる蝶赤し

   ブラジリア               異儀田恭子

夏雲に世紀の謎の大地上絵
蝶一つとばむ砂丘の果てしなき

   ブラジリア日本大使館内      二階 恭子

初汽車にインカの谷の芥見し
夏嶺にインカ飛脚の商健在

   ブラジリア 農技師         孫工弥寿雄

赤土に野の草萌えてインカ果つ
天を抜くワイナピチュ這い霞立つ

   川崎市 旅行者           青柳 勝美

インヂオのケーナを聞いて年惜しむ
アンデスに餅無き雑煮汁すする

   サンパウロ市 ナチオナル研究生     岩間 之浩

輝きしインカ帝国夏髙嶺
夏山にリヤマ曳く童あどけなし

   サンパウロ市 主婦              内海 英子

ケーナの音悲し過ぎゆく大晦日
初春や物売るインジヤ顔暗き

   カンピーナス 東山農産勤務   山角  健

砂漠なる真夏の日ざしに拾ふ骨
夏の雲ナスカの地上絵に時止まる

   カンピーナス 主婦         山角 弘子

初荷負ふインジアの目に山の影
インカ人知るや谷間の浅き春

   サンパウロ州ピリチーバ            岐部 由人

夏草や亡びて果てし民哀れ
夏青き飛機に見下ろすチチカカ湖

   元イタケーラこどもの園協力者   西本 尊方

病める母クスコに思ふ夏の旅
元朝やインカの子供物を乞ふ

   サンパウロ州ペレイラバレット牧農園主   山本 正夫

妻が荷に入れし合羽や山驟雨
卜卜舟のインヂア乙女に初日さす

   サンパウロ市 オーラン食品経営      遠藤 五郎

マチュピチュの絶壁城址雲の峯
夏草に亡びしインカの跡を訪ふ

   サンパウロ市 主婦               雨宮千代子

雨の無きペルー移民に雨を乞ふ
インヂオに元日ありや市に群れ

   ジャルパックサンパウロ市支店代表     上野目昌市

初日影牛丸く坐しリャマ立てる
アンデスの野の家貧し花菓咲く

   サンパウロ市                   上野目光枝

雪解川インカ帝国今は亡き

   リマ市日語ガイド           杉丸ミゲール

初雀インヂオの顔の哀しくて
初春やインカの里の雨に濡る

   リオ オーラン食品代表        遠藤 甲山

花仙人掌日の神殿砂漠中
アンデスの民の歌聴き年守る
去年今年遺跡巡りの旅続く
初空にワイナピチュの峰秀ず

   サンパウロ市 主婦                石田みどり

金雀枝やアマゾン源流岩を噛む
初バスやマチュピチュへのイロハ坂

   サンパウロ市 主婦                吉間かなえ

アンデスの初日を拝む玻璃戸開く
マチュピチュへ行くよく停る初列車

   サンパウロ市 清和学園教師          宮田 勢子

そのかみのインカの栄都つばめ来る
ママクーナの遺跡に手折る姫わらび

   ポツソスデカルダスマイアミホテル  富田 峰春

月涼しインカの商の笛哀し
インヂオの哀しき顔の初笑

   サンパウロ市 山梨県人会会長         髙野 耕声

クスコからリマに降りて初ゴルフ
棉の花カニエテ町の日本寺

   サンパウロ市                    仙洞田武仙

雨を聴くクスコの宿の去年今年
金雀枝やマチュピチュ路の川瀬急く

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