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ニッケイ俳壇(904)=星野瞳 選

アリアンサ         新津 稚鴎

煮こごりや義務の如くに飯を食ふ
海暮れてかりがねに遠き星一つ
馬に乗ってから霜消しを所望せる
諦めは安らぎに似て寒夕焼
大根抜きし穴に夕風吹き初めし
秋耕の老にアヌーのつきまとひ

【作者は移民ではなく一人で来てアリアンサに自分の思うままに住みつき、思うままに自分の天地を生り、たとえばチークの木の植林や、ゴムの植林などもあり、ゴムを産出して居るとか】

プ・プルデンテ       野村いさを

春寒しもう一枚着て行くことに
山椒の無き田楽の味気なし
ちんば引きおそるおそるで青き踏む
今日も晴屋根替え人夫ものんびりと
曽孫の手向けし風車芝の墓地

カンポスドジョルドン    鈴木 静林

七夕や願いは手芸上達を
道譜請弁当がかこむ大榾火
一日燃ゆる山家囲炉裏の大榾火
薪不足今年は暖炉飾り物
三日続く霜は山野を焼きつくす

サンジョゼドスカンポス   大月 春水

黄イッペ散るはかなさの舗道かな
三本の孫がつまびく哀歌かな
気をつけて行けよう一言深き霧
日なたぼこ席が空き居る君逝きて
長からずと云う言葉信じ重ね着をぬぎ

サンパウロ         湯田南山子

リハビリや日本祭に行けぬ悔
職退いてよりの三寒身にこたふ
焼藷の焦げしを好む皓歯かな
差し昇る陽に催わた日向ぼこ
梅咲くや後藤農園思ひ出す

サンパウロ         佐古田町子

晩秋の空は曇りがち肌寒し
柿食べて老はすこやか日々のどか
秋の空どんよりとして気も晴れず
幼な子はにこにこすこやかに日々のどか
特別の花束用意祖母に孫いただき

サンパウロ         鬼木 順子

何も彼も覆い隠して冬の霧
そのままに落花悲しや寒椿
姿良き盆栽松笠冬の庭
良く出来た自慢のキムチ寒夕餉
巣立つ子を抱きしめ祝う冬うらら

サンパウロ         小斉 棹子

バイオリンの銭乞ふ音色春浅し
灯明も春の灯となり亡夫照らす
健脚の亡夫を偲び青き踏む
公園を横切る小路春浅し
今日も又いつか昔に亀鳴ける

サンパウロ         武田 知子

歩も弾み鳥語も弾み青き踏む
吹く風の未だ刺のあり春浅き
春浅き湯気立ち登る中華街
七転八起の曽孫や青き踏む
ふと口をついて出る歌早春賦

サンパウロ         児玉 和代

雲切れし薄日に風の春めけり
本を閉じ眼閉ざせば亀鳴けり
遅れる歩風に誘われ青き踏む
野菜切る刃切れよき音春浅し
解き放つ日常旅の青き踏む

サンパウロ         馬場 照子

喧騒の巷潤すイペーロッショ
オリンピック世界に誇れ木の芽晴
日本祭驚く進化木の芽晴
人好きが裏目のイルカ芸見事
ゴム手袋も少し和らぎ春浅し

サンパウロ         西谷 律子

春浅き少年うすき髭生やし
亀鳴くや亡き人偲ぶ句座の池
水を出て鳥羽根ひろげ青き踏む
春浅き日本館訪ふ訪伯団

サンパウロ         西山ひろ子

聞き忘れ云ひ忘れかも亀の鳴く
頼りなき声の受話器に春浅し
ふと思ふ今夜の食事青き踏む
目じるしの紅イペーや右折する
続け出る欠伸に泪日向ぼこ

ピエダーデ         小村 広江

踏青やたまわる命生きぬかん
日溜りに座して実梅をまぶしめり
亀鳴くや我返事なき人と話もし
青春の燃え立つ色のスイナンと
小春日の句座なごやかに花あふる

サンパウロ         原 はる江

亀鳴くや卆寿者多き俳句会
紅イペーの玉咲きゆれる朝市へ
病床の遠き妹よ春浅し
久に来し山家の庭の青き踏む
人々の寿命が伸びしと亀の鳴く

サンパウロ         川井 洋子

青き踏む大地に生きる移民かな
亀鳴くや火星移住のプロゼクト
スリッパに戯れる子猫の野生かな
暮らす中感じる春のまだ浅し
春が来た三つやりたき事がある

サンパウロ         岩﨑るりか

赤靴の幼女は跳ねて青き踏む
何もかもわすれて句作春の人
老の春句にめぐり合い歳時記くる
花冠皇女気取りで青を踏む
厳かに静まりかえる春の寺

リベイロン・ピーレス    西川あけみ

浅き春人出少なき夕市場
春の風うれしき知らせ連れて来し
春寒し夫婦別れのぐちを聞く
春の夜シネマにバイレ遥かなる
春浅きハウスのビニール飛ばす風

サンパウロ         西森ゆりえ

血の色のスイナンふと倦む時ありぬ
新しき生命育てつ春を待つ
寒いことばかりが話題の電話かな
ことの外今年色濃しイペーロッショ
女性知事誕生の春来たりけり

サンパウロ         日野  隆

花冷に一枚重ね着花見かな
春の嵐満開の桜花吹雪
花の無きユーカリ林に紅一点
せみしぐれ聞けばせわしく汗にじむ
磯の風椰子にあたりて実をゆらす

ピラール・ド・スール    寺尾 貞亮

蟻の塔移民遺せし夢の跡
我が家の瓦飛ばせし原爆忌
父逝きし母子残して終戦忌
不況なきイペーの花や咲きにけり
惚けてても良き子等持ちて妻の春

サンパウロ         大塩 祐二

湿原に霞たちいて春浅し
踏青や子等嬉々として野に遊ぶ
野に遊ぶなつかしさ呼ぶよもぎ草
民宿の馳走や山菜蕗のとう
春浅しバス停の人風をさけ

サンパウロ         大塩 佳子

オリンピックブラジルの子等に新世界
上向いても涙こぼれしわが青春の日
女学生夢歌いつつ青き踏む
眼とじれば一村の夕べ亀の鳴く
祈りから作る平和へ原爆忌

ヴィネード         栗山みき枝

落葉焚きいつもの山あい里の暮
里の暮牧広々と枯葉色
サンミゲオ竹垣そいに花ゆれて
寒風に椰子大木のゆれにゆれ

サンパウロ         竹田 照子

リオ五輪光の祭典冬空に
冬ざれや余命無き友を案じ居り
悲しみの空想い出す原爆忌
リオ五輪聖火しずしず空に舞ふ
冬深しテロの仕業におののく世

サンパウロ         玉田千代美

寒き夜の子の足音を確かめる
寄せ鍋に父似母似の子等集ひ
ままならぬ足をかこちて冬ごもり
病むことは生きる証しや冬ごもる

サンパウロ         山田かおる

お祝いとお悔み多かりし冬は行く
淋しかり師も友もなき移住祭
アリアンサ総出で祝いし移住祭
アリアンサ第二のふるさと移住祭
校庭の昔を偲ぶパイネイラ

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