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ニッケイ俳壇(888)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

屠蘇を酌む我百才をブラジルに
野の雨降りそびれたる残暑かな
宙を飛び逃げる蛇追ひアヌン二羽
草青む牧場に光る沼一つ
こぼれ種子まで生える蕎麦の花盛り

【百才を迎えたこの作者はまだ元気一ぱい、たのもしい限りである】

   ペレイラ・バレトット    保田 渡南

開拓の孫が市長や風香る
山焼きし種蒔きしこと大切に
地平まで大豆の起伏雲の峯
麻酔われぐっとメス入る冷やかに
人がみな倖せに見え秋を病む

   カンポスドジョルドン    鈴木 静林

秋晴の空にほいほい瓦投げ
秋晴や十五で棟梁鶏舎建て
るほど秋の色まさる山の色
車止めいつまで見飽きぬ花マナカ
新涼や九十六才誕生日

   ソロカバ          前田 昌弘

憧れの上級生や藤袴
秋風のそぞろ身に入む議員かな
一と掴みほどの雲浮き秋の空
蜻蛉飛ぶすいすいと蜻蛉澄む
種豚の重さは二百桐一葉

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

経を誦す既に逝きたる人が来る
介助など要らぬ卆寿を感謝して
遠吠えの犬に読書疲れの眼鏡外す
秋晴れのベンチにやっと辿りつく
あの病舎訪ふ事もなく義姉は逝き

   リベイロンピーレス     中馬 淳一

野菜畑菜虫育てて被害大
秋出水排水つまり道は池
木守柿高きに一つ夕映えて
秋晴や老の楽しみ釣りに行く
秋晴れて頬なず風のさわやかに

   イタチーバ         森西 茂行

近代の俳句の匠虚子忌祭来る
羽抜け鶏産卵終り一と休み
夜更して夏時間に又すると
夏布団煎餅布団の美名あり
謝肉祭娯楽方が主体なり

   サンパウロ         鬼木 順子

道行けば風に吹かれる紅芙蓉
秋茄子山積にされ店先に
月の夜の歩道に劫な芒の穂
白き棘わずかにありて秋胡瓜
乾南瓜ざるに広げて日溜に

   サンパウロ         寺田 雪恵

衣被めづらしき名前の食物よ
フェイジョアーダに慣れて食欲秋深し
つながらぬ電話気になる秋突風
苦瓜の甘そうに熟れし高々と
ひと休みする朝顔に水をやる

   アルバレスマッシャード   立沢 節子

祝儀仏儀続く会館秋の暮
茹栗の皮山盛りに語り次ぐ
残す餌に群れてにぎ合ふ小鳥の日
カルナバル皆で来ると云う電話

   カンポグランデ       渡辺 チエ

河づたい鶏が告げゆく大寒波
終着は山焼曇りの南麻州
牛群に道ふさがれし麻州旅
麻州富士南伯富士と客案内
初夏の旅鉱山の道石の町

   マナウス          東  比呂

トッカーノ梢に残る夕日浴び
大河岸ジュート刈る人担ぐ人

   マナウス          宿利 嵐舟

浮き雲を映す古池水澄めり
ピッカピカ入学式の孫笑顔
輝いて子等入学す日も昇る
ゆかしくも風とたわむる秋桜
幹の伸ぶ飛行機雲や天高し
秋高し峰に一と刷けはぐれ雲

   マナウス          河原 タカ

新しき教科書匂う入学式
ジャングルの隙間にブルー秋高し
秋高し大きく息を吸い込みて

   マナウス          松田 永壱

ギヤギヤと飛び交う空もツッカーノ去り
ジュート刈り蛭も仲間の繁忙期

   マナウス          山口 くに

ポ語知らぬ移住地生まれの入学児
ネグロ河アンデス育ちの水も澄む

   マナウス          橋本美代子

天高し視野半分はネグロ河
高原の賑わい去れば秋桜
よその子とつい見比べて入学式
ツカーノ鳴けば森より夕べ迫る

   マナウス          丸岡すみ子

ツッカーノ戦闘機の如飛び立てり
水澄むや魚の影も川底に
酒呑みて水に浸たりてジュート刈る

   マナウス          村上すみ子

何処より種飛び来しか黄コスモス
三百万のデモ行進や秋高し

   マナウス          渋谷  雅

親も子も気持ち高ぶる入学式
かけちがう上着のボタン入学式
水澄んで水面に写る樹海かな
秋高しどこか遠出をしてみたし
田の畦にコスモスゆれて風通る

   トカンチンス        戸口 久子

子牛にカリンボをして秋高し
コスモスや川原に咲きて風にゆれ
山焼きて小川の水は澄みにけり
入学すブラジル人の中日本人

   サンパウロ         武田 知子

シチューにもカレーにも飽き茸飯
朝茜褪せて秋空澄み渡り
日溜りに秋思の種を置きにけり
芋の露星影吸いて眠り居り
感性も知性も老いて温め酒

   サンパウロ         児玉 和代

身ほとりの欠けゆく隙間秋の風
日本人に戻る一と時柿を食む
四月馬鹿真を座右に齢重ね
秋の風日差しさえぎり髪吹かる
雲高く流れうすれて秋の風

   サンパウロ         西谷 律子

いつまでも居座っている残暑かな
色鳥や体に似合わぬ声放ち
摺った黒見る間に乾く残暑かな
ファベーラの子等は逞まし町残暑
サントスへ下りればまとひつく残暑

   サンパウロ         西山ひろ子

さまざまな彩の小菊を一と鉢に
庭隅に変らず咲いて石蕗の花
黄コスモス風の余りの絶えまなし
あるがままの天命生きて秋うらら
半世紀過ぎ行く早さ銀河濃し

   サンパウロ         新井 知里

秋晴や久しぶりなり君の席
秋日和バスとメトロで習い事
好きなこと続けて行こう秋日和
天高しお地蔵さまも聴き届け
病い癒え秋晴の中習いごと

   サンパウロ         竹田 照子

秋夕立何を怒りて荒れ狂ふ
秋の虹渡れば会えるか亡き人に
貯水池の水量まして秋安堵
露深しスピードゆるめ車行く
せまり来る黒雲見つめサビア鳴く

   サンパウロ         三宅 珠美

花野径ひなびた町のポウサーダ
祖母騙し孫悦に入る四月馬鹿
頬なでる新涼母の手のような
秋鯖の切身こってり味噌漬に
土人の日土人文化の展示会

   サンパウロ         原 はる江

移住地の細道おほふ竹の春
不況の世節約せよと秋の声
もう増えぬ家族寄り合ひパスコアに
高々と生りとアバカテ落ちるまま
俺よりも先きにゆくなと夫秋思

   サンパウロ         平間 浩二

新涼や肌やんわりと風過ぐる
新涼や身にそふ風のやさしうて
秋灯やペンはかどりぬ夜更かな
秋めくや心に一句載せて詠み
秋思ふと我が自家用車間違えぬ

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