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ニッケイ俳壇(883)=富重久子 選

   セザリオランジェ      井上 人栄

乱れ棹すぐ立て直し雁渡る
【「雁渡る」といえばすぐ、「かりかりわたれ おほきなかりはさきに ちひさなかりはあとに なかよくわたれ」という童謡を口ずさむが、この句の通り少女の頃はよく夕焼け空を棹になったり、かぎになったりして西の空へ消えていく雁の群れを見送ったものであった。サンパウロに来てからは一度も見たことはないが懐かしく郷愁をそそられる心に残る秀句である】

突つかれて膨れ威嚇す蟇(ひきがえる)
【ミナスで、夜になるとミーリョ(とうもろこし)小屋の周りに大きな蟇が沢山集まって、おこぼれを食べている様子を見たが勇壮なものであった。
 この作者ならではの言葉の選択で、読み応えのある佳句揃いであり巻頭俳句として推奨させて頂く】

セラードや末広がりに鰯雲
懸命に生きる輝き汗の顔
次々とパラシュート降り鰯雲

   サンパウロ         大原 サチ

虫の闇探す一句に夜は更けて
【「虫の闇」、虫の鳴いている草叢も何も分からないような闇をいうが、そんな虫の鳴き声を聞きながら、さて一句を詠みたいと思いながら、中々思うように詠めない。そうこうしているうちに寝る時間もとうに過ぎてしまったし、何となく面白くないが諦めて寝につく。
 サンパウロを離れて地方に旅した時の一句であろうか。この人らしい佳句である】

貝割菜土もり上げて朝の日に
車椅子の姉を連れ出す菊日和
書を伏せてふと眺れば三日月

   サンパウロ         橋  鏡子

金髪の師にあこがれて夜学生
【移民した頃、金髪の若い女性を本当に美しいと思った時があった。金髪が珍しかったからであろう。  
 この句はそんな若い先生に授業をうけて居る生徒が、あこがれるのは珍しくないが、特に「夜学生」ということになると、いい青年が想像されて微笑ましく楽しい佳句である】

シャンソンのショーに招かれ秋夕べ
カンナ燃ゆ埠頭に着きし移民船
秋彼岸念仏唱ふ伯人僧

   ポンペイア         須賀吐句志

鰯雲漁師ほほえむ今朝の空
【「鰯雲」はもう誰でも知っているが、澄んだ空に鱗状の雲が群れ広がり、この雲が出ると鰯の大漁といわれるのでこう呼ばれている。  
 この「鰯雲」は海浜だけでなく平野の空ででも見られ「鱗雲」「鯖雲」とも呼ぶ。「漁師ほほえむ」と言う優しい佳句であった】

訪日を果たせぬ悔や鳥渡る
灯火親し呆けてはならぬ趣味一つ
難民もテロも無き空鳥渡る

   サンパウロ         串間いつえ

峡の径急に飛び立つうづらかな
【「うづら」は雉の仲間であるが小さく、ころころ草の間を駆け回っている。よく鳴くので飼われるが小さな卵を産み、肉もおいしいとのことで、道端に脚を括れて売られている姿は可哀想である。 この句、田舎の峡の径を歩いていて突然うづらが飛び立って驚いた、という俳句であるが、驚いた作者とうづらの姿まで見えるような自然の様子の好ましい佳句であった】

早や三十年父の命日秋彼岸
徐行する千草の径や工事中
ここ辺りだけが停電秋しぐれ

   ファッチマ・ド・スール   那須 千草

渡り鳥終の栖(すみか)は風の中
【ブラジルにも秋になると南から多くの鳥が渡ってきて、冬を過ごし春に繁殖して子育てし又帰っていく。何れも大群をなして、次から次へと小鳥の大群をみることもある。
 街中では中々見られないが、作者の地方ではよく観察出来るのであろう。「終の栖は風の中」とは、中々穿った言葉の表現で立派な珍しい俳句であった】

筍の時期を逃さず蓄へる
復活祭チョコ卵買ふ人あふれ
老の目に酷使と知りつ秋灯下

   サンパウロ         広田 ユキ

幾許の余生を思ふ星月夜
【作者は先日九十二歳になられたが、まだ蜂鳥の編集部員として無くてはならない人として、頑張って下さっている。この句にあるように余生を思う日々であるが、私よりずっとしっかりしておられる。
 「星月夜」という季語のしっかりと坐った心に残る佳句である】

薬掘る命惜しむに非ねども
賜はりし命を惜しみ髪洗ふ
黒猫に前を過らる受難節

   サンパウロ         林 とみ代

秋灯下家族写真のセピア色
【齢を取ってくると、何となく身辺整理をしなければと思うのはお互い様で、少し暇ができると思い立つ事がある。そしてまず手にするのが写真であろうか。
 この句の様に手に取ってみると驚くなかれ、昔の懐かしい家族写真がすっかりセピア色に変色している事であった。秋灯のもとしみじみ感慨に耽る作者の姿である】

旅立ちを吉と占ひ鰯雲
受難節汚職はびこる国に住み
パソコンの交流励む秋灯下

   スザノ           畠山てるえ

パイネイラ河原に魚旨き店
【パラナに居た頃、パラナ河の上流に渡しのバルサがあって、長時間の待合に色々食べられるよう、の小さな店があった。そこで忘れもしないトライーラの空揚げがあって、よく主人と食べたものであったが、新鮮で実においしかった。
 この句を読み、しみじみ懐かしく思い出し、パイネイラが何物にもかえられない鮮やかな季語で、郷愁の佳句である】

初秋や新駅出来てスザノ湧く
窓閉めて油脂のしたたる鮭を焼く
初秋の野菜苗買ふ午後の市

   ペレイラ・バレット     保田 渡南

石榴の実もげば朝露雨と降る
野の月に向かひて犬の遠吠えす
向き合ひて斧打つ二人露大樹
ふり向けば笑顔がありぬパイネイラ

  イツー           関山 玲子

工場に押され花野の遠ざかる
太刀魚をいくつに切らむ子等寄る日
ひと雨の運べる恵み秋涼し
草梅漬け先駆者の智恵今もなほ

   カンポス・ド・ジョルドン  鈴木 静林

雷鳴に牛車をせかす鞭の音
出水の町流されて行く縫ひぐるみ
落陽に芒の原は茜染め
出水の町バス停留所川となり

   ファッチマ・ド・スール   伊藤みち子

菊活けて友と談笑親しめる
朝掃除いくら掃けども秋の風
初旅は親の後追ひ渡り鳥
初めての自作に詠みし菊の花

   サンパウロ         平間 浩二

燈火親し二人で読みし手紙かな
旅終へて寛ぐ我が家鰯雲
パソコンの捗る語句や秋燈下
湖の水面に泳ぐ鰯雲

   サンパウロ         鈴木 文子

父母の無償の愛や受難節
秋の燈や家族団欒ありし頃
今年又道を違へず鳥渡る
さはさはと吹きわたり行く竹の春

   サンパウロ         菊池 信子

根を張りていと健やかに竹の春
【筍が若竹となり、其れが伸び麗しい緑色となるのは仲秋の頃であって、その時期を「竹の春」という。竹の根は地震にもめげないといわれる位強く、綿密に広がっていく。その爽やかな竹の翠を詠んだ佳句である】

喧噪を避けて山家の竹の春
猫親子仲良く寝まる秋燈下
手を休め見上ぐ農夫や鳥渡る

   サンパウロ         原 はる江
          
青々と境界示す竹の春 
行く当ても無き難民や渡り鳥
秋冷や欠席投句多き句座
我が厨三種の秋蘭香を放ち

   サンパウロ         篠崎 路子

カンナ燃ゆ余生てふ日々惜しみつつ
秋草を化粧瓶にも厨窓
塩鱈の高値を嘆き四旬節
それっきり音信も無くカンナ燃ゆ

   サンパウロ         秋末 麗子

ベランダの萩に想ひを野に馳せて
鰯雲大空眺めウオーキング
秋風に両手を上げて深呼吸
鰯雲大空いっぱい広がりて

   サンパウロ         玉田千代美

渡り鳥列を正して故郷へ
我が庭に雀の遊ぶ竹の春
秋燈下娘に書く便り淋しかり
病める身の電話投句や秋時雨

   サンパウロ         上田ゆづり

カンタレイラ山静かなる星月夜
椎茸の香りのピザやニューレシピ
パモニアの味に田舎をふと偲び
不景気も苦にせず踊るカルナバル

   サンパウロ         上村 光代

鰯雲浮かんでる空すばらしき
並んで行く渡り鳥あり空遠く
鰯雲綿菓子の様なつかしく
旅の宿燈火親しく談笑す

   ピエダーデ         国井きぬえ 

天地荒れ世相くるひて秋立ちぬ
鳥たちの小鉢のプール残暑かな
秋彼岸ふるさと恋し卒寿越す
停電に燈下管制偲ぶ秋

   サンパウロ         鬼木 順子         

長月の暗き階段そろり降り
秋の朝葉を数へては拾ひけり
白き花少し覗かせ茗荷かな
稲妻や一瞬四方を写し出し

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