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ニッケイ俳壇(862)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

受難日の肉屋の台にある聖書
草笛に今も力行応援歌
ひやひやと雨をこぼしぬ鳥曇
ランプ下げ通いし句会念腹忌

『念腹忌』とは、ブラジルに俳句を広めた第一人者の佐藤念腹の命日忌のこと。ホトトギスの門人で、高浜虚子の客観写生、花鳥諷詠を理念とし、ブラジルの自然をそのまま詠んだ俳人。ブラジルでは毎年、念腹忌に俳句大会が開催され、直弟子から孫弟子まで多くの人が参加する。

『念腹忌』とは、ブラジルに俳句を広めた第一人者の佐藤念腹の命日忌のこと。ホトトギスの門人で、高浜虚子の客観写生、花鳥諷詠を理念とし、ブラジルの自然をそのまま詠んだ俳人。ブラジルでは毎年、念腹忌に俳句大会が開催され、直弟子から孫弟子まで多くの人が参加する。

アラポンガ鳴き止めば森がらんどう
森の穂にアララが騒ぎ初明り

【投句者・新津さんは十年ぶりに第二句集を出された。この十月三日で満百才になられた作者に、心から拍手を送りたい。第二句集から六句を頂いた】

   セーラドスクリスタイス   桶口玄海児

大玉椰子一番雨を支え居り
一番雨ありし畑に早や農夫
一畝は韮の畑よ一番雨
春の月支えユーカリ山静か
春の月淋し八月十五日

   グァタパラ         田中 独行

離れない山羊庭のつつじへ真直に
つつじ咲く鉢に埋もれし墾の軒
苗札に日付けも記し老いしかな
鳥追いのテープを吊って苗の札
群れること無くビンチビー声高し

   サンパウロ         湯田南山子

カンポスは療の町緋石楠花
濯ぎ女の唄縷々として花マンガ
移住地をよみがえらせし花ゴヤバ
春風や卆寿の父の気張りよう
君子蘭貧しき家に淑気よぶ

   ソロカバ          住谷ひさお

アリアンサに白寿祝ふ春の宴
睡蓮や桃色ばかり園の池
白蓮華蒲草陰に一花かな
プラスチック編みし小鳥ヒナの声
NHKの俳句甲子園春の風

   カンポスドジョルドン    鈴木 静林

おぼろ月日本恋しや野天風呂
野天風呂菩薩が見えるおぼろ月
水飲器蜂がむらがり水うばう
驟雨にててらてら光るゴヤバの実
散りかかるイペー落花踏まず行く

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

すれちがふ連絡船の霧笛かな
桑苺探すわんぱく小僧等は
盆踊り亡妻の成仏願いたる
春霞奈辺になるか友の家
胡蝶蘭沈思の春に何想ふ

   サンパウロ         寺田 雪恵

三つ葉取りに来て思い出す卵焼き
デモ行進さながら春のかたつむり
アマリリス食べて太りてかたつむり
蓮華畑少女の友や春の夢
書道展思わぬ人に会いにけり

   マリンガ         野々瀬真理子

春愁や出かせぎに行かなかった事はあだ
春愁や目のうすくなりし事にも
高台の養老院は霧の中
裏庭の小鉢に植えし桔梗咲く
脚をかけ蛇口の水を飲む仔犬

   サンパウロ         佐古田町子

才も無く名もなき人のホ句の秋
それぞれの主観の違い秋の月
呼び戻すうつろな心渡り鳥
語学力日伯混じえてホ句の秋
行く先は見えぬ人生冬ごもり

   スミドウロ         吉本 和子

片陰を犬と分け合いたどる坂
この暑さ読めぬ漢字に尚暑し
遠ざかる夜警の笛や明易し
街残暑犬も尾をたれ首をたれ

   マナウス          阿部 起也

七夕に書かぬ愛は胸中に
年取りて七夕の願い煩しく
闇汁の楽しみ友の驚き声

   マナウス          阿部 真依

日脚伸ぶ得した気分の日暮れ時
日脚伸ぶ茜色空帰り道
七夕の淡い思い出懐かしく

   サンパウロ         武田 知子

弓場を去る篠つく春の雨の中
百才の翁土産持ち春の句座
かりそめの逢ひや別れのイペーの下
惜春の稚鴎の握手にこたえ
釣り釜や行く春惜しみ茶筅振り
春暁やふくろう迄も弓場の里

   サンパウロ         児玉 和代

騒ぐ子を尻目にでんと蟇
木兎も蛙も鳴いて里の春
終ひ湯に身を沈め聞く蛙の声
春泥の深くえぐれし轍跡
春の草抱かれてばかりの小犬かな
耕して俳句に生きて百歳万才

   サンパウロ         西谷 律子

牛の背の白き草原草萌ゆる
雨に濡れ黒ダイヤかとジャカランダ
いまわれの好きな季節になりにけり
ジャカランダの幹がゆりかごぶうらんこ
空に消ゆ緑のじゅうたん草萌ゆる
また会ふと云えぬ握手やあたたかく

   サンパウロ         西山ひろ子

国守るてふ聖母の日なり薔薇五色
※『聖母の日』の聖母とは、ブラジルでアパレシーダの聖母と呼ばれる聖母マリアのこと。サンパウロ州アパレシーダの川で聖母マリアの像が見つかり、その像に祈れば願いが叶うとブラジル人の間で信仰されており、バチカンの認定を受けてその像の発見の日が聖母の日として祝日となっている。

子供の日子より受けたる愛あまた
光とも風の流れに蝶の舞ふ
一輪車でパン屋の売り子のどかなり
囀りもうたた寝をする夢の中
水売り子車道に増えて春暑し

   サンパウロ         新井 知里

春の旅ピンクのバック提げて行く
山笑ふ九十名の大旅行
風光る日語学院どぎも抜き
メキシコより戻りし庭に春の蘭
おもてなし日本食なり春の宵
春の雲白くぽっかりメキシコシティ

   サンパウロ         原 はる江

忘れしを御互い様とうららかに
晴れ渡り山家はしずかサビア鳴く
草萌ゆる奥パウリスタ牧多く
葱坊主小さいうちにと抜き呉れし
子供の日曾孫は遠きバンクーバ
惚け除けの俳句も遅々と春深かむ

   サンパウロ         玉田千代美

京人形の黒髪のばし春を待つ
呼び声も売らるる物も春めきし
春の日に惚けない唄を口ずさみ
赤を着て春灯なればときめきぬ
好きな事好きで続けて老いの春
老いの春よろこびすぎて轉びおり

   サンパウロ         竹田 照子

米寿越し卆寿を前に老の春
心地よきし朝寝をさまし虎落笛
黄のイペー絨毯しいて誰を待つ
突風におどろき風鈴狂い鳴る
母の日や子等の愛情で生きる幸
幼き頃七夕トンネルくぐりし日

   サンパウロ         三宅 珠美

幸せな家族が宝冬ぬくし
寒紅を引いてたちまちパワー沸き
祝い句座今日の佳き日の師の笑顔
ケントンのおかわりほてる頬あつし
着ぶくれてよちよち歩きの孫愛し
花々のつぼみふくらみ春近き

   サンパウロ         山田かおる

小鳥たちのさえづり金龍師の葬かなし
桜散る如舞いつ逝かれし金龍師
春暑し髪切りに行くもいとわれて
春愁や師の怪我案じつおどり居し
アマリリス茎五十五センチ強く咲く
ごちそうとビンゴと花で敬老会

   ジョインヴィーレ      筒井あつし

寒の鯵買い占め干物作りけり
寒鰡のオスメス仕分け商ひぬ
西空に輝き残し月冴ゆる
中天にあけの明星冴え返える
父の日や父を知らずに育つ子に

   リベイロンピーレス     中馬 淳一

埋葬の香煙のぼりジャカランダ
位牌持ち祖先の供養彼岸寺
わらび茹で茹で汁青し匂い立つ
わらび干し山家の暮しつましかり
恙なき余生春眠果てしなく

   アチバイア         東  抱水

小鳥の日野鳥捕獲は禁じられ
小鳥の日自慢の鳴鳥提げて来る
くるくると回ってをりぬ尾無し凧
よく晴れて千差万別凧の空
凧の丘街見下ろして親子連れ

   アチバイア         宮原 育子

竹とんぼ爺と飛ばせし子供の日
人寄せの籠吊る公園小鳥の日
教案の書き込みあとや教師の日
野遊びをせし野も今は分譲地

   アチバイア         吉田  繁

県知事も叔母の教え子教師の日
恩師よりの色紙仰ぐや先生の日
宇宙ロケット身近に眺め野に遊ぶ
中天の凧の彼方に飛機が行く
椰子並木パパガイオ群れて大合唱
※『パパガイオ』はポルトガル語でオウムのこと。

   アチバイア         沢近 愛子

朝顔の開くを数え良き朝
道端で見つけし露草庭に植う
牧青み牛戻る日ももう真近か
先生に憧れし姉若く逝き
花卉祭餅搗く人の恰好良き

   アチバイア         菊池芙佐枝

野遊びの遠き思ひ出夢か現か
里遠くモンテベルデの山吹きに
凧仰ぎ戦火に喘ぐ民想ふ
ジャカランダ花びら敷きて我を待つ
花卉祭婦人会の弁当早や売切れて

   マイリポラン        池田 洋子

日伯の友好愛ずる花卉祭
花卉祭人待ち顔のバスの列
胡蝶蘭もらいて別れ告げる夜
凧の糸ほどく手元のおぼつかなさ
風船と云ふ字教えし日もありし

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