ホーム | 文芸 | 俳句 | ニッケイ俳壇(911)=富重久子 選

ニッケイ俳壇(911)=富重久子 選

スザノ           畠山てるえ

薪を焚く観光列車竹の秋
吐く煙後へ後へと花マナカ
マリアフマッサ老幼嬉々と山笑ふ
列車行く町に郊外黄イッペー
浮雲の空にひと掃き竹の秋

【「薪を焚く」観光列車があるとは聴いているが、残念ながらまだ乗ったことは無い。昔窓を開けると、もうもうと煙の入った事を覚えていて何となく懐かしい。
 「竹の秋」、竹の落葉期が春であるので歳時記では「竹の秋」は春の季語である。
 煙にむせるような「花マナカ」、年寄も子供達も楽しげな様子を「山笑ふ」、そして町に郊外に咲き誇る「黄イッペー」と締め括りの竹の秋。見事な旅行吟であった。
 小旅行でも旅行吟として詠むことは、何時までも懐かしく良い想い出として残るものである。佳い巻頭旅行吟である】

ヴァルゼン・グランデ    馬場園カネ

巣立鳥山の電線弛みがち

【この句の季語は「巣立鳥」。飛び立った雛鳥は、近くの電線にまず一休みし次の行動を考えているのかも知れない。
 車で郊外に出ると、この句の様に野山に引かれた電線が弛んでいるのを見かける。「山に電線弛みがち」とは即ちこの山中の電線と、「巣立ち鳥」の不可思議な縁を詠んだもの。真によく省略の利いた作品で味わって読み返したい佳句である】

浅蜊貝ひそかな悲鳴あげゐたり
学童ら目を輝かせ独立祭
蘖(ひこばえ)やユーカリ山の混み合へる

ポンペイア         須賀吐句志

やんはりと話合はせて合歓の花

【「やんはりと」という言葉、続いて次の「話合はせて」とこの作者らしい一句。人事を詠んで何時も楽しませてくれる俳句であるが、中々このように飽かせる事のない作者である。
 それと「合歓の花」という取り合わせ、季語の選択が絶妙な佳句である】

新緑や何でも出来るコンピューター
テロ騒ぎ人の世の事新芽吹く
行く春や長生き同志長話

アチバイア         宮原 育子

蒲公英の絮まんまるく風なき日

【出窓の鉢に、ミニタンポポがいつも絮をつけては飛ばしているが、蒲公英の絮はほんの少しの風にでも吹き飛ばされてしまうからである。
 真にこの句の様に、「絮まんまるく」安らいでいる日は無いのである。ふと道のへに見ての蒲公英の姿の、優しい女性的な写生俳句であった】

終バスの吾待つ夫に門おぼろ
一本づつ苗持ち登校樹木の日
朧月にじみつ我につき来る

サンパウロ         串間いつえ

シネーザに間違へられて鱒買へり

【時々私も、「シネーザ、ジャポネーザ?」などと聞かれることがあるが、東洋系はどこか似ているのであろう。「エウソー、ジャポネーザ」と応えて見ると、中国人であったりして親しめる。
 それにしても、「鱒買へり」の下五の締めくくりが良かった。鱒は「サクラマス」の別称もあり庶民的な魚である】

幾度の別れありけり桜貝
街風にそよぎっぱなしよブラシの木
のどかさに気づかぬ終点折り返す

サンパウロ         森川 玲子

蕨伸ぶ丘の彼方にリオの海

【何時か皆で旅した上村ファゼンダでの景色であったが、山の上からリオ・ミナス・サンパウロが良く見えて美しかった。街の景色が陽炎に霞んで見えそのなだらかな丘には、蕨が一面に背を伸ばし柔らかそうな茎が伸びていた。
 丘の彼方の景を詠んで見事であった】

じゃんけんぽん一番決める春の昼
大型バス霞の中を走り去る
水槽の真白き砂にサクラ貝

インダイヤツーバ      若林 敦子

雨降りて蕨の背丈ぐっと伸ぶ

【この度は、可なり良い春雨だったようで庭の草木も野山の蕨も背丈を伸ばし、息づいてきたことであろう。
蕨は野山を焼いた後に、それこそ烏合の衆のように出揃って小母さんたちを喜ばし一度に春が来た様に明るい野山となる。伸び伸びとした明るい佳句である】

この国の歴史は浅し独立祭
山の端の新興住宅風光る
シネーロの子らも混じりて青き踏む

サンパウロ         橋  鏡子

春雨や旅のみやげに蛇の目傘

【この大サンパウロ市にもやっと良い雨があって、少し潤ってきたがこれを「春雨」と呼ぶには一寸情緒がなさ過ぎる気がする。
 この句、日本の土産に蛇の目傘を貰ったという俳句。普通の傘でないところが、中々粋な気の利いたお土産と思う。珍しい佳句であった】

樹木の日グリーンベルトはごみの山
絵の如く四囲の明るさ梨の花
豊作を約して梨の花ざかり

アチバイア         沢近 愛子

花卉祭香月流に魅了され

【毎年あるアチバイアの花卉祭は、大変賑やかで楽しいお祭である。昔何回か出かけたが、最近は暫く行っていない。
 その中で各流の生け花展もあり、「香月流」に魅了された、真に楽しい佳句】

日々草吊鉢にして客迎へ
花卉祭大納言てふ赤飯も
鄙の家桑の実熟れて友来る

サンパウロ         日野  隆

日々の家計妻に預けて日向ぼこ

【最近は俳句の調べが整ってきていますが、まだ季重なりがあり少し添削させて頂きました。しかし調べも内容もとてもよくなって参りました。お励み下さい】

寒き夜の猫は湯たんぽ抱きて寝る
街路樹の新緑が眼に眩くて
カンポスの桜祭りや六分咲き

アチバイア         吉田  繁

孫に語る大樹の歴史幹に触れ
サルビアの赤き蜜吸ふ蜂雀
踏まれても平気な花よ鼓草
犬吠える朧の影に怯えてか

アチバイア         池田 洋子

グリーンの蜂鳥とまるロープかな
春塵に負けずすっくと竹立ちぬ
親切を受ける寂しさ春のバス
黄イッぺー誇らしげなる立姿

ピエダーデ         国井きぬえ

空晴れて初つばめ舞ふ高々と
春迎へ友の回復祝ひけり
盆踊り不景気飛ばし老いも出て
青空に白イッペーの盛りかな       

サンパウロ         伊藤 智恵

春の宵食べ物屋台増えし街
花大根甘き香りをただよはせ
春眠を心ゆく迄してみたし
夢誘ふイビラプエラの噴水に

タウバテ          谷口 菊代

梨の花今年も見事実り待つ
春眠の気楽な子供かわいいな
梨の花パラナの昔懐かしき
樹木の日浮かんで見える景色かな

サンパウロ         佐藤 節子

陽炎に街の景色も薄っすらと
大根に花が咲いたよとうが立つ
白い花梨の花咲き実が実る
大きな木実になる梨の花が咲く

カンポス・ド・ジョルドン  故 鈴木 静林

ものの芽の頭てっぺん萌黄色
寒暖計見る朝の日課に春近し
梅園の紀州小梅は花ざかり
春の野路貰ひし子犬懐に

image_print