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ニッケイ俳壇 (858)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

激つ瀬のひっぱる風や木々芽ぐむ
草萌ゆる野やぽっかりと月浮かべ
鼻振って家の漫歩や蝶の昼
夜蝉鳴く泣き虫の樹が泣き止めば
貯水池に天から降って目高棲む
いさぎよく葉を落としイペ花仕度
水温む鶏が孵せし子家鴨に

【作者・稚鴎さんは来たる十月三日で百才になられる】

   アチバイア         東  抱水

ブラジルは営農大国大豆蒔く
寝返りを打って朝寝をつづけをり
巣造りも器用不器用あるごとし
青き踏む気分良ければ病良し
雄叫びは永遠に聞こえる独立祭

【作者・抱水さんは、来たる十一月六日で御歳百五才にお成りになり、いよいよお元気なる由、おめでたい】

   セーラドスクリスタイス   桶口玄海児

ユーカリの里の囀り又よかり
ブーゲンビリア花の一朶に一山家
ユーカリの伸び盛りとや春の月
地に降りて餌をさがす鳥庭涼し
ポルトガル歯朶アマゾン歯朶や庭涼し

   ボツポランガ        青木 駿浪

生涯は薔薇を愛して至福なる
一病の妻を看取りてシクラメン
招き猫妻のマスコット春うらら
風光る風紋の浜果てしなく
庭に咲く花とりどりに春闌ける

   アチバイア         吉田  繁

東風吹いて新芽の枝に親子猿
鳥居立つ日本庭園青き踏む
黄イッペ独立祭に合わせ咲く
句会終えなほ一と仕事日永かな
刺の中野鳩の巣あり花の蔭

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

桜餅作りし彼女は今は亡き
桜吹雪くぐりてカンポス電車来る
観桜のうどん賞味の卓につく
手枕の夢路を辿る春も佳し
散る花の定めと今日も咲く桜

   ソロカバ          住谷ひさお

誕生祝椰子の葉蔭に集ふ宴
朧夜に歓声湧きてボーロ切る
カラオケに半分流れ春の宴
蜂鳥の集ひ争いして金鳳樹
うららかや敬老会に招かれて

   リベイロンピーレス     中馬 淳一

水温み小魚跳ねて湖碧し
水温み釣りの道具もととのえり
水温みあひるすいすい親子連れ
ベンテビー小魚盗りて庭の池
桑の芽のほぐれて枝のゆさゆさと

   サンパウロ         寺田 雪恵

被爆者の歌友の逝きて十五年
暮れきれぬビルに白き月まんまろき
生きて会う七月に二度の満月を
ジノサウルス一役買って子供の日
夫逝きて明治も去れりひと息す

   アチバイア         宮原 育子

父の日や几帳面なる父偲ぶ
青き踏むシチオの子等は靴はかず
独立祭日系高官威厳あり
独立祭軍犬軍馬も誇らしげ
学校は国歌の稽古独立祭

   アチバイア         沢近 愛子

独立祭平和な国に感謝して
鄙の家終の住処や青き踏む
父の日や子等手向けたる花あふれ
サッカー場若者達が青き踏む
草刈機通して安心青き踏む

   マイリポラン        池田 洋子

パラナ松そびえる空に春の雲
春嵐おどろおどろと吹き過ぎぬ
電柱に残る鳥の巣主なく
かまど巣を作って一生添いとげる
蛙鳴く声なつかしき故郷想ふ

   サンパウロ         佐古田町子

花祭りアルジャードライブ人の波
皆笑顔やさしき心花祭り
邦人の丹精に驚くきめ細やか
きな粉餅賞味している異邦人
人と人和合楽しき花祭り

サンパウロ州アルジャー市では、毎年花祭りが開催される。今年は「愛の賛歌」をテーマに、2千平米もの広大な会場を結婚式のイメージで飾りつけられていた。

サンパウロ州アルジャー市では、毎年花祭りが開催される。今年は「愛の賛歌」をテーマに、2千平米もの広大な会場を結婚式のイメージで飾りつけられていた。

   サンパウロ         山﨑しずか

気がねなき一人暮らしや冬温し
打ち寄せる波にのり来る春の風
似たような移民の人生移民祭
着ぶくれていつもぶつぶつ独り言
梅の花数える程に初咲きす

   サンパウロ         小斉 棹子

歩く日の近かずく孫と陽炎える
根の国の野辺に咲くべし桜かな
南風の黄泉平坂サビア鳴く
咲き尽きし千の花火の空優し
炸裂やあでやかに咲く花火かな

   サンパウロ         武田 知子

今日も又春風駘蕩ならず暮れ
花の散る花守り散りし如逝けり
過ぎ来しの地国天国みな朧
惜春や追慕重ねつ杖の身に
終演の余韻を包む春ショール

   サンパウロ         児玉 和代

去ぬる子の抱擁余寒ほぐれけり
みまかりて桜浄土に存すかんばせ
眼裏に桜の散りて師の柩
春意削ぐ冷たき雨の靴濡らす
刺あらば削青く春浅き雨

   サンパウロ         馬場 照子

一すじの光はラジオ終戦日
児等は歌ふ鐘の鳴る岡終戦日
団塊てふ復興世代終戦日
春の雲夕日に映へて錦織る
掌に似し葉を畳んで芽吹く紅葉かな

   サンパウロ         西谷 律子

葉桜となりしカルモに南風師逝く
惜しまれし別れの涙か春の雨
南風師見送る墓地にサビアの子
春愁や爪に喰ひ込む墨の跡
亡き人を偲んで買ひぬ春の蘭

   サンパウロ         西山ひろ子

花の精追ふて浄土に発たれしか
次の世も桜守てふ師の逝去
フリージャの彩を束ねて香を束ね
この寒さこれで終りと念じ居り
待春の心手足も待って居り

   ピエダーデ         小村 広江

桜に俳句大いな足跡南風逝く
木藷植え安堵の雨に目覚けり
春の風子等の笑顔のかがやけり
夕東風やほのぼの灯る里あかり
寒桜に小鳥群れて里日和

   サンパウロ         柳原 貞子

南風師の形見の桜よ永遠に
桜守りの訃報に静もる春の闇
句の道と桜に捧げし生涯巨匠逝く
やり直しきかぬ余生やめぐる春
遂に逝くカルモ桜の生みの親

   サンパウロ         吉﨑 貞子

長々と電話の友は桜讃ふ
満開のつつじは白し空青し
バスに乗ることも乏しき冬は行く
イペー咲く街道沿うて香りけり
供えしは好物でありし草の餅

   サンパウロ         原 はる江

花供養の笑顔ありあり南風師
新芽萌ゆ木々の渋滞苦にならず
咲き終えて悲しみに見る落ち椿
物足りぬ雨にきびしき寒波来て
ベンテビー鳴く朝不意の師の訃報

   リベイロンピーレス     西川あけみ

ブラジルにさくら咲かせて逝きし人
春の雷喜雨連れて来て川あふれ
春灯下耳かき好きはパパの膝
イタケーラは長寿の村なり桃の花
父の日や家族の笑顔集いけり

   ヴィネード         栗山みき枝

草餅や亡夫の思い出緑茶餅
ジャボチカバ大木にして花衣
ピッタンガの小花きらめき庭香る
ジョンデバーロ求愛ダンスもかしましく
ねずみ捕り夏夜の怒号悲鳴かな

   サンパウロ         大塩 佳子

あの娘にと淡いピンクのカンパニョーラ
晩学の娘気長婿居て今日卆業
春の日やあの人ステキ八十路とか
子孝行は無病息災春日向
桜の園花守りに舞ふ花吹雪

   サンパウロ         西森ゆりえ

句友等と墓苑に悲しく聞くサビア
午前だけ水あるくらし春ぼこり
春の雨思い出明るきことばかり
寒玉子つねより力こめて割る
師を偲ぶ句座に明るきひまわりよ

   サンパウロ         大塩 祐二

桜守り花の吹雪にのって逝く
みなみ風にゆれて惜しまれ散る桜
うす掛け布増して春眠むさぼりぬ
春の夢青春の頃見て淡し
ファベーラの童ら夢中凧合戦

   サンパウロ         平間 浩二

寒暖については行けぬ春の風邪
朝羽織り昼脱ぎ宵の余寒かな
春光やゲートボールの玉の音
桜守笑顔残して逝きにけり
南風翁永久に名誉の桜園

   サンパウロ         太田 英夫

春が来たどこに来たかと児に聞かれ
全快す妻にうつせし春の風邪
バスうらら居眠る車掌起こす客
不況とて桜も咲けば鳥も鳴く
物干しの片竿かつぐ梅の枝

   クリチーバ         山下トシ子

手作りの衿巻しめて媼行く
紫の色も鮮やかすみれ咲く
飲み手なく増ゆ名知らぬ薬掘る
老いたれど腕力まだあり薬掘る
凩に耐えて芽を吹く草花よ

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