ホーム | 文芸 | 俳句 | ニッケイ俳壇(842)=星野瞳 選

ニッケイ俳壇(842)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

大王椰子銀河を浴びて身じろかず
俳恩をかしこみ虚子を祀るなり
移住地は山鳩鳴いて虚子祀る
柵を出て仔を産む豚や竹の春
麻州野の牛追ふ馬も皆肥えて

   北海道・旭川市       両瀬 辰江

母と摘みし蓬の香り幼き日
戦無き北の大地にリラ香る
追越され又追越され春の道
一斉に芽吹き出したる北の大木
【母国の春を頂きました。こちらの国の政治はすこしゆがみかけた様にも思われて案じています。こちらはもう冬が近づいて来ています。御地ほどではないのですが、暖かな国になれ切っているので寒さはこたえます。ご投句ありがとうございました。】

   ボツポランガ        青木 駿浪

残照の中に残花のパイネイラ
病む妻に納得させて冬仕度
炊きたての御飯の匂ひ寒卵
地にかえる狭庭を埋めし椰子落葉

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

身分証明出して乗る秋の旅
一日遅れつける秋の旅日記
晩秋の山波越えて来る娘待つ
行く秋の園のベンチ吾を待って居り

   グアタパラ         田中 独行

枝落ちし屋根に昇りて落葉掃く
庭芝の刈り揃いしに落葉降る
野兎のライトの前を飛び去れる
日本葱大きく甘く根深汁

   ソロカバ          前田 昌弘

サザンクロス北へ北えと伸びる街
凝り性の友の丹精懸崖の菊
母の日の老妻娘らにかしずかれ
奴隷の日血を引く婢の明るさよ

   ソロカバ          住谷ひさお

イペーローザ咲いて蜂鳥集い来る
蜂鳥等ダーマダノイテに寄らず去る
 ※『ダーマダノイテ』はサボテン科の月下美人のこと
時無しの珊瑚八つ手に冬日濃し
朝市に兎待ち居る芋を買ふ

   サンパウロ         寺田 雪恵

灸すえて旅の支度す空高かし
もう少し欲しい所で箸を置く
コーヒーのカフェインなしを選ぶ秋
首巻きで風邪よせつけぬ秋ふけても

   マナウス          東  比呂

秋澄めり樹海大河の隅々に
アマゾンの露と消えたる父母や友
我も又この地の露となる身かな
蜩にやがて静まる斧の音
構えいて拍子抜けせし四月馬鹿

   マナウス          河原 タカ

秋澄む日出直し誓い深呼吸
秋澄む日かけっこビリの孫ながめ
秋澄む日白球高く舞い上がり
山に向かひ蜩鳴きて人恋し

   マナウス          宿利 嵐舟

草の葉に涙の如き露光る
だましてもちと気が引ける四月馬鹿
だまされて苦笑いする四月馬鹿
友来たり昔を語る月見酒

   マナウス          松田 丞壱

父逝きて柩に添える菊枕
秋澄んで遠き彼方の太鼓の音
新米の家族揃っての絆増す
草の露裸足で駆ける園児たち

   マナウス          阿部 起也

寂しさを含みて吹きたる秋の風
蜩の声澄みわたりて日が暮れる
子供より親が着飾る入学式
だまされることも楽しむ四月馬鹿

   マナウス          阿部 真衣

栗ご飯口に広がる祖母の味

   マナウス          服部タネ女

秋澄むや思いきり遠出して見たし
花におく朝日に光る露の玉
かなかなの声を遠くに帰途急ぐ
寒む空に夜学の孫を門に待つ

   マナウス          山口 くに

澄む秋のネグロ河面も濃紫
鶏頭の紅こぼす昼さがり
蜩を故郷の電話に聞く郷愁
移民墓地蜩鳴いて道跡絶え

   マナウス          岩本 和子

空澄んでかすかに聞こゆ飛機の音
朝日受け光り輝く露の玉
かなかなや心配事に明け暮れて
園児等の踊りに歌に復活祭

   マナウス          橋本美代子

露の世を今が幸せと生くるべく
蜩鳴く昼の余熱を払いつつ
耳打ちしまことしやかに四月馬鹿
耳聾万羽のねぐらのピリキット

   マナウス          丸岡すみ子

空澄みて対岸の森追るかな
露清く丸く結びて葉に光る
蜩や疎遠になりし旧友想ふ
かつがれて吹き出す笑い四月馬鹿

   マナウス          渋谷  雅

ヤッホーと秋澄む山は谺する
移住地の露となりたる父と母
町中に魚焼く匂い聖金曜
四月馬鹿騙し騙され大笑い

   マナウス          吉野 君子

蜩にせかされ野良を後にする
野良着でも野菊のごとき君なりき
泣き止まぬ児を背に行く月夜道
月明り二つの影がより添いて

   トカンチンス        戸口 久子

河岸に網打つ音や朧月
明月や客船上る大河かな
アマゾンの大河を目指し渡り鳥
豚小屋に親豚子豚月に寝る

   サンパウロ         武田 知子

病み居りて深まり行く秋窓に見つ
天の川偕老約すも一人逝き
風邪の舌味覚奪ばわれ五粁痩せ
回復の見え初め柿をデザートに
丹青の重きに勝さる柿甘き

   サンパウロ         児玉 和代

夕ぐれは異に独りの暮の秋
日日黄葉増して落せし静寂に佇つ
明けの空俄に暗し朝しぐれ
夜寒し手持無沙汰のペン取れば
余念なく冬日の枝に羽づくろふ

   サンパウロ         馬場 照子

水不足引摺る町に咲くイペーロッショ
母の日や埠頭に別かれ半世紀
擦れ違ふ着ぶくれ同士の会釈かな
抒情歌に昭和ふり向く残る虫

   サンパウロ         西谷 律子

生かされた命しぼりて残る虫
返える場所さがして落葉舞ひ狂ふ
後戻り出来ぬ人生落葉踏む
カリフラワー虫にはけわしき森となる

   サンパウロ         西山ひろ子

晴れ渡り風の転ろがし行く落葉
こだわりをさらりと捨てて秋の果
こんなにもと惑ふ寒さ腰と足
朝寒の薬湯やはしき香りかな

   ピエダーデ         小村 広江

一と握り拾えば足りるむかご飯
時雨傘たためばさっと日の差して
よき日和秋蚊デンゲと怖れけり
風邪の神居心地よきか一と月も

   リベイロンピーレス     西川あけみ

恋人の日冬のソナタをもう一度
日本人好む山茶花淡く咲く
石蕗の花やさしく咲いて村しずか
冬のばらコロンビア産大輪に

   サンパウロ         柳原 貞子

再読のアンネの日記秋灯下
湯豆腐や幾つになっても母を恋ふ
リズミカルにワイパー流し秋時雨
いただきし大ぶりの柿手にずしり

   サンパウロ         西森ゆりえ

楽しみは今日より新米炊けること
カボチやンとブラジル人名付けし南瓜買ふ
大柿に思わず頬ずりしておりぬ
グロリオーザてふてふ狐百合美しき

   サンパウロ         吉崎 貞子

秋灯下うつらうつらと指を揉む
一夜明け蛇口をゆるめ秋の水
一人居に話題豊富な秋の声
庭の草控え目におく色あせし

   サンパウロ         原 はる江

モジスザノ辺り彩り柿紅葉
 ※『モジスザノ』は、ブラジルのサンパウロ州にある都市、モジ・ダス・クルーゼス市とスザノ市のこと
目を見張る路地に咲き満つ紅イペー
秋日和老人誘いてお茶の会
ブラジルと思えぬ秋のモノレール

   サンパウロ         川井 洋子

老うことの孤独重たき残る虫
向ひ合ひ夜なべする手に黙の刻
栗むきてポツリポツリの会話かな
日本語で生活す毎日移住祭

   サンパウロ         岩﨑るりか

寒々と伝わって来そう月の色
もてなしの火鉢の炭火心にくし
雨滴受け山茶花の散る石畳
誕生日は夫の好物すき焼きで

   サンパウロ         大塩 佳子

老どちも学びは楽し冬の午後
脳筋トレもたもたなれど冬楽し
寒き日のこれも温もる焼きりんご
冬陽入る学舎によき師よき友等

   サンパウロ         大塩 祐二

早暁の底冷えにして相撲見る
冬ざるる路上寝の人に胸つまる
寒鰤や出世頭の刺身食ぶ
しんとして眼下の甍に月冴ゆる

   ピラールドスール      寺尾 貞亮

うつすと月の光や山眠る
冬めくも眠病む妻のよく眠る
長女産む孫誕生報冬の朝
エス像や夕日を受けて日短か
冬耕や鍬一丁で老いにけり

   サンパウロ         平間 浩二

名も知らぬ小さき花や野路の秋
雨に濃き大阪橋のクワレズマ
秋灯の消して一と日を省みる
うるわしき一行の詩ホ句の秋

   サンパウロ         太田 英夫

父だけが忘れて居りし母の日や
日語はや怪しくなりぬ移民の日
借金の形に取られし山眠る
ふぐ鍋やこの世に未練まだあれど

   リベイロンピーレス     中馬 淳一

大鍋で足らぬ雑炊子だくさん
初時雨杖をたよりによたよたと
雑炊やお椀のぬくもり手をぬくめ
寒夕焼サントの像も赤く映え

   イタチーバ         森西 茂行

菊の花霜におごろや枯れて行き
おでんでも御馳走の中に入るなり
落葉して桜も今は枯木立
寒椿品位を持ちて花咲かせ

   サンパウロ         松井 三州

狐火や金はこの世で使ふべし
狐火を見たことはなきこの国で
ふるさとは珍らしからず狐火は
人鬼の落ちたる跡には淡残る

   アチバイア         東  抱水

メーデーや我が青春を想起する
今もなお学生参加労働祭
メーデーや今は関わりなき人生
先づマンヂオカ植えよと一と株貰いけり

『マンジョカ』はキャッサバのこと。芋はタピオカの原料。

『マンジョカ』はキャッサバのこと。芋はタピオカの原料。

(Foto By David Monniaux (Own work) [GFDL (httpwww.gnu.orgcopyleftfdl.html), CC-BY-SA-3.0 (httpcreativecommons.orglicensesby-sa3.0), CC BY-SA 2.0 (httpcreativecommons.orglicensesby-sa2.0) or CC BY-SA 2.0 fr (h)

   アチバイア         宮原 育子

皇孫はシャーロット姫聖母月
木藷掘る跡に一と枝ずつ挿して
アニアンがバウに労組集結労働祭
集会はサンバに変わる労働祭

   アチバイア         沢近 愛子

微笑みし夫に供える赤き柿
子や孫の集う倖せママイの日
母の日を俳句の清書して楽し
冬近し脂肪草の穂出そろいて

   アチバイア         菊地美佐枝

香をさぐり辿り着いたら枇杷の花
母の日やあの子どこの子また増えて
冬野行き漸っと見つけし蓬草
雨やみて嬉しいおやつの木藷あげ

   マイリポラン        池田 洋子

病得て労働祭を寝て過し
愛こめたマンジオカスープに癒されて
母の日は手巻きしよかすき焼きか
赤の白病なぐさむ冬のばら

   アルバレスマッシャード   立沢 節子

米寿卆寿と招待続く秋の晴
百才に一つ足らずの秋の宴
目も耳もまだまだ達者と秋米寿
抱き合って達者よろこぶ移住祭

image_print

こちらの記事もどうぞ

  • ニッケイ俳壇(912)=星野瞳 選2016年10月27日 ニッケイ俳壇(912)=星野瞳 選 アリアンサ  新津稚鴎信濃村のポルトガル人煙草干す鳩車に似て葦舟や湖は春アリアンサの鳳梨も供え念腹忌睦みつつ濁流越えて行きし蝶富士の絵の額の後に守宮棲む […]
  • ニッケイ俳壇(910)=星野瞳 選2016年10月14日 ニッケイ俳壇(910)=星野瞳 選 アリアンサ         新津 稚鴎 淋しさの寒月光に身を委ね 麻州野の大夕焼の森閑と 鳳梨売る砦の如く積み上げて 霧の中飛び来るは皆トッカーノ グァタパラ         田中 独行 巻き風の吹き上げておりパイナ飛ぶ […]
  • ニッケイ俳壇(908)=星野瞳 選2016年9月30日 ニッケイ俳壇(908)=星野瞳 選 アリアンサ  新津稚鴎 冬耕や錆びてキコキコ云ふ耕車 背広着し案山子の哀れ見て通る 故国訪い逢えざりし友の賀状来る 河へだて牛啼き交わす夕立晴 色褪せし旱の蝶のとぶばかり […]
  • 焚火祭はフェスタ・ジュニーナ(6月祭)のことで、田舎風に装った若い人たちが集まり、大きな焚き火を囲み、大鍋でピンガに香料や砂糖を入れて煮るケントンを呑み、歌い踊ったりする。2015年7月13日 ニッケイ俳壇(846)=星野瞳 選    アリアンサ         新津 稚鴎 迷い入れし冥土の如く寒夕焼枯れるもの枯れ麻州野は夕焼けて風止みしこの静けさも夜の秋珈琲園耳の短い兎住む鋤焼きの最後は餅を入れて食ふ【一九一五年十月三日生れで、この十月で百才になられる。一字も正しく書いて下さる。字がまともに書け […]
  • 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第20回2013年2月23日 連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第20回 ニッケイ新聞 2013年2月23日 「コダマ、ノン・テン・トロッコ(お釣りがないよ)」 「ノン・プレシーザ(必要ない)」辞書を引きながら児玉が答えた。 […]