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アトランチコ・スル造船所で新しく建造された石油採掘船P-62と従業員と共に完成を祝うジウマ大統領(Roberto Stuckert Filho/PR)
アトランチコ・スル造船所で新しく建造された石油採掘船P-62と従業員と共に完成を祝うジウマ大統領(Roberto Stuckert Filho/PR)

ブラジルは汚職で動いている?=ペトロロン摘発で経済悪化=LJ被告の言葉は確かか=生き残りをかける労働者党

 14年以降、景気の減速感が強まり、15年に入ってからは、雇用喪失や景気後退(リセッション)の言葉がより頻繁に聞かれ始めたブラジル。5月12日にパラナ州で開かれた下院のペトロブラス(PB)議会調査委員会(CPI)で、連邦警察のラヴァ・ジャット作戦(LJ)で逮捕された闇ブローカーのネウマ・コダマ被告が「ブラジルは汚職で動いている」「汚職の輪が切れたから経済危機や景気後退が起きた」と語ったと5月13日付伯字紙が報じたのは、果たして本当なのだろうか。

ブラジリアでの下院PB議会調査委員会(Alex Ferreira/Camara dos Deputados)

ブラジリアでの下院PB議会調査委員会(Alex Ferreira/Camara dos Deputados)

 14年3月17日に第1弾が始まったLJは、15年6月19日で第14弾を数えた。「汚職は別の汚職で隠匿されていた」というコダマ被告の言葉通り、芋づる式に出てくる容疑者達は、アルベルト・ユセフ被告を始めとする闇ブローカーや、パウロ・ロベルト・コスタ被告のようなペトロブラス関係者、ユセフ被告との関係が指摘されて下議離職のアンドレ・ヴァルガス被告のような政治家など、とどまるところを知らぬ雰囲気だ。
 PBや岩塩層下の油田開発のための採掘船建造を目的として創設されたセッテ・ブラジル(セッテ)、カルテルを組んでPBと契約を結んだとして贈賄などで摘発された大手ゼネコンなどが機能しなくなり、その余波が随所に及んでいる。
 例えば、汚職疑惑でPBが止まれば傘下のセッテも止まるため、同社からの注文で船を建造していた造船所が立ち行かなくなるのも、当然といえば当然の負の連鎖だ。
 6月7日付エスタード紙が報じたバイア州マラゴジペ市のサンロッケ・ド・パラグアス地区は、LJで摘発されたオデブレヒト、OAS、UTCが共同出資するエンセアダ造船所が唯一の大企業だ。一時は6千人の地区住民からも1千人など、総勢7360人が同造船所の建設や船建造のために働き、国内外からの訪問者を見越してホテルやレストラン建設の準備を始めた人もいた。

 7千人以上の雇用がわずか200人に

 だが、現在のエンセアーダ造船所は、主な機材を箱にしまい、しまい込めない大型施設などを維持するためだけに200人ほどが働いているだけ。解雇が本格化した14年11月以降、生き残るためにやきもきする人々がそこここで見られる。日本まで派遣され、技術を学んで帰ってきたが解雇された人もおり、共同出資者である川崎重工の方へ何とかしてくれないかとすがる思いの人も多い。
 この辺の事情はIHI(旧石川島播磨重工)などが参与するアトランチコ・スル造船(EAS)や、アブレウ・エ・リーマ(AL)製油所があるペルナンブコ州スアペ港周辺でも同様だ。
 AL製油所は建設工事での不正が摘発された一例で、EASはセッテからの支払いが止まったため、セッテとの契約を破棄する必要も生じた。ペルナンブコ州経済開発局のチアゴ・ノロンエス局長は、「LJのせいでPBが止まった事で、当州の中小企業は多大な損害を被った」と明言する。
 スアペ港は、AL製油所に続いて建設されるはずだったマラニョン州のプレミウムⅠや、セアラ州のプレミウムⅡ製油所の製品も扱う事が期待されていただけに、建設工事の停止その他で受けた損失は計り難い。
 種々の工事やその後の運用などで、将来的にも安定した収入が得られると期待していた企業家や住民が、列をなして止まったバスや散乱する鉄骨などを前になすすべもなく頭をたれている様子は5月24日付エスタード紙が報じている。

 運転資金作りで部門売却も加速へ

下院のPB議会調査委員会で証言するパウロ・ロベルト・コスタ被告(Lúcio Bernardo Jr./Câmara dos Deputados)

下院のPB議会調査委員会で証言するパウロ・ロベルト・コスタ被告(Lúcio Bernardo Jr./Câmara dos Deputados)

 工事などが止まって窮状に追い込まれたのは、LJで摘発され、司法当局から資産の差し押さえを受けた企業だけではない事はこれらの例からも明らかだ。連邦政府は、これらの企業が倒産などに追い込まれ、失業率が上昇したり、生活に困窮する人々が出てきたりするのを恐れ、本来なら新しい入札に参加したりする事は出来ないはずの企業にも救済の手を差し伸べようとしている。
 また、6月18日付エスタード紙が報じた、PBがガス、エネルギー関連のガスペトロを2分割し、三井ガス・エ・エネルジア・ド・ブラジルなどに売却しようとしている例のように、グループ内の企業や部門を売り払い、運転資金を作ったりする動きもある。
 6月9日付フォーリャ紙が報じたカマルゴ・コレアの場合、グループの収益の3割を占め、14年の実績は世界7位を誇るセメント部門のインテル・セメントの株式の10~18%を売却して20~36億レアルを得、国外のセメント事業に投資する事などを考えている。 
 LJで摘発された大手ゼネコンは、6月9日に政府が発表した道路や港湾、空港などへの大型投資計画の入札にも参加できないはずだからと奮起する中小企業もあるが、中小企業の場合は資金力や労働力確保などで限界が生じる可能性もあり、行政側の配慮を要するなど、景気回復の起爆剤としては不確定な要因が残っている。

 狭まる政治家への包囲網

 他方、別の意味で気になるのは、連邦検察庁が最高裁に提出した政治家のリストだ。レナン・カリェイロス上院議長やフェルナンド・コーロル元大統領(現上議)、リオ州の前・現知事などについては銀行口座や電話のやり取りに関する情報公開が許可されるなど、政治家の包囲網は少しずつ狭まり始めた。
 連警の捜査では、検察庁のリストには入っていないルーラ前大統領絡みの金の動きなども表面化した。ジウマ大統領が2010年の大統領選に出馬した時にアントニオ・パロッシ元官房長官が汚職疑惑の企業に金を請求したかを更に追及する動きや、ジョゼ・ジルセウ元官房長官が国外に旅行した時の詳細な情報を集めるようにとの指示が出るなど、労働者党(PT)の要人を巡る動きも活発化している。
 冒頭に挙げたコダマ被告の言葉を裏返せば、ルーラ政権下での国内総生産(GDP)が一時、年8%台の成長さえ遂げたのは、汚職が経済を動かした故の好景気といえなくもないと考えるのは天邪鬼か。
 5月10日付フォーリャ紙は、「PB絡みの汚職事件はPT政権の屋台骨を揺るがした」「PTは政権を譲る覚悟をすべき」とのジェツリオ・ヴァルガス財団のオタヴィオ・アモリン・ネット氏の言葉を掲載している。また、5月24日付エスタード紙は、汚職や暴力、新興中流階級台頭などによる「怒りの波」がラ米の大統領の人気を地に落としているという記事を掲載した。
 ジョアキン・レヴィ財相を軸とする財政調整がどの位の効果を挙げるかはまだ計り難いが、民主社会党(PSDB)は6月の党大会で18年の大統領選にジェラウド・アウキミンサンパウロ州知事擁立の方向を固めたようだ。また、先の大統領選で3位となったマリーナ・シウヴァ氏が新党結成のための手続き再開など、新たな動きも出て来ている。(み)

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