「〃日本酒〃という言葉を日本産以外で使用禁止!」――との国税庁の方針が先月9日に報道された。つまり、ブラジルで作っている酒は「日本酒」と表示してはいけない―ということだ。当地への影響について1934年の創業以来、サンパウロ州カンピーナス市で「東麒麟」を製造し続ける東山農産加工有限会社の小林信弥社長に尋ねてみた。
国税庁が「日本酒」と表示できる酒類について日本国産で生産された米、水を使用し、日本国内で醸造される清酒に限定するという方針を固めたと発表された。同規制は日本政府が成長戦略の一環として、他の海外製品と差別化し、ブランド力を高め、輸出促進のために行われるようだ。
小林社長は「率直に言って影響があるとは考えていない」と断言する。「ブラジルでは日本酒、サケ・ジャポネースのいずれの言葉も浸透しておらず、東麒麟はその表記は使用してこなかった」ためだという。
つまり規制されるのは「日本」という地域表示がつくもの。ブラジルで日本酒を意味し、東麒麟に表記される「Saque(サケ)」に対してはその規制が及ばず、ラベルの変更等を迫られることがないというわけだ。
今後規制の影響で、ブランド力のついた「日本酒」が当地市場を席巻することも「考えにくい、価格、味ともに十分に勝負できる」と自信を覗かせた。
その自信の根拠となるのが、こうじを使用する等、日本の酒税法で清酒とされる基準を守り、また現地で10年以上の経験を持つ日本人杜氏、日本の杜氏学校を卒業した駐在員の2人を工場に勤務させるという徹底的な品質管理だという。
またJETRO(日本貿易機構)サンパウロ事務局広報担当の森下竜樹さんも「ブラジル人に〃Saque〃という認識以外はないと思う。消費動向からしてもすぐに大きな影響が出るとは考えにくい」と同様の見解だ。
またブラジル日本酒市場に対し、「東日本大震災後、日本からブラジルへの日本酒輸出量は大きく減り、その代替品として東麒麟に加え、日本の酒造会社が海外で製造する製品も広く流通したようだ」と日本側には厳しい現状を説明した。
ブラジル全体の日本酒市場は約330万リットル(農林水産省、2012年)と言われており、日本の酒造会社が米国で製造する製品の輸入が約82万リットル。小林社長によると東麒麟は昨年単独で137万リットルを販売したので、3分の1以上にあたる。その他、サクラ中矢の「大地」など当地の銘柄は多くない。今のところ、日本からの輸入は10万リットル程度だという(農水省、2013年)。
森下さんは「ここ数年でブラジル展開を考えている蔵元や商社から相談がきている」ことも明かした。同規制がこれら進出企業の追い風になり、「日本酒」輸入増加となるかが注目される。