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『百年の水流』開発前線編 第一部=北パラナの白い雲=外山脩=(40)

若き日の後宮武雄

若き日の後宮武雄

父親そっくりの…

 後宮武雄の長男良威氏は、先に記した様に、1935年、セント・ビンチ・シンコに生まれ、翌年、日本へ行き、15歳でブラジルに帰った。その後1957年、再び日本へ行き、父親と同じ慶応の経済学部を卒業して結婚、夫人と共に6年ぶりに帰伯した。
 慶応の経済といえば、職場は丸の内のビジネス街辺りが相応しかったろう。が、牛糞の臭いが鼻をつき、藪蚊や種々の虫が肌を狙う農場の仕事を選んだ。東京駅で、ネクタイを締めパリッとした人々が、階段や通路を埋め尽くし、整然と行進する様を見て、とてもアンナことは出来ない、と思ったという。農場ではカマラーダと同じ労働から始めた。
 父親そっくりの人生コースであった。

降霜は満月と一致し… 

 農場のカフェー樹は、やがて回復、経営も好転、1965年には大豊作に恵まれ(乾燥した状態で)5万俵を収穫した。しかし1966、67、69年と降霜が続いた。良威氏は父親から、次の様な話を聞いたという。
 「降霜は満月と一致し、前日に雨がある。当日の午前零時、風はなく雲もなく、星数、星の光が異常に見える。朝4時頃、窓のガラスは真っ白に凍り、戸外の気温は摂氏零度になる。朝、太陽が出る頃、異常な臭いに気付く」
 大きな被害を受けても、武雄の表情、態度は立派で、良威氏は「憂き事の尚この上に……」を実感した。氏は、これを家訓としている。

フェルージェン

 1960年代後半からの恩典付き農業融資の時代、後宮農場は、借りた分は銀行に預金、事業は自己資金でやった。この方法が正解であったことは、当時を知る誰もが認める。
 1970年代前半、ミナスで発生したフェルージェン(サビ病)が、パラナ州へ侵入した。防菌剤は市販されていず、これに犯されたら、癌の宣告に等しかった。
 その頃、後宮親子は、毎朝、農場を一回りしていた。背丈の二倍以上のカフェー樹の下で、一人対一人の会話を交わしながら歩いた。
 そして遂に、カフェーの葉にフェルージェンの胞子が見つかった。カマラーダ全員に指示して、病変した葉を袋に入れて回収したが、その数の多さに驚いた。しかも、量は一日一日と増えて行った。
 後宮農場は、カフェー単作から、カフェーとセレアイスの営農に切り替えることにした。
 フェルージェンに犯された樹林を処分することにし、二台のトラトール(マッセイ・フェルグソン50X)で、大きく太い鉄の鎖を引っ張って、なぎ倒し、乾くと火をつけた。
 カフェーは新植する場合、碁盤の目状から、等高線式に切り替えた。良威氏は二、三人のカマラーダと等高線づくりに随分歩いたことを覚えている。
 セレアイスに関しては、この地域の大豆栽培のパイニアであった隣の大農場主アルツール・ホッヒ氏を訪れ、農場を見せて貰った。1973年10月、大豆の種を蒔いた。冬は小麦をつくった。
 1975年、パラナ州を襲った大凍害の物凄さについては、二章で触れたが、後宮農場は、この時、カフェーの新植中止を決断した。さらに農場の一部を賃貸しすることにした。
 1976年、後宮武雄は故人となった。68歳だった。

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