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アーリョ・ショウナン裏話=炉辺談話=荒木桃里=(2)

にんにくイラスト

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 今年になってこの地方は、アーリョの旋風が起こっている。それは、新品種として発見されてアーリョ・ショウナンが本年度始めて出荷してみて、サンパウロ中央市場で認められ、色艶といわず、身のしまり工合といわず好評を得、売れ行きは上々で高値をよび、その上、農務長官の認可も得て登録されたからである。
 あまりの人気に食指を動かされた鹿さんも、息子と相談して今年から植えてみようと思い、一足先に去年から植えている大貫に、種子を分けてもらうように頼んでいたのを、今日持って来てくれたのだ。

 二人共、両手をかざしながらアーリョ談義に花が咲いてきた。それに合わせてコップのピンガも減っていく。
 「鹿さん、この度の表彰状はよ・・・・・あれは俺にくれなきゃうそだよ」金時のように顔が赤くなった大貫はだしぬけにこんな事を言った。
 「なんのことだ、それは」鹿さんは目の切れ目がなくなってしまうような笑顔を大貫に向けた。
 話はこうである。
 この度のアーリョ登録に関しては、K産組の橋渡しと応援によって、新品種を発見改良した小楠猛の名をとって、「アーリョ・ショウナン」と命名した。そしてそれを助け、大量栽培して出荷を軌道に乗せた小楠の親友、神武正太郎のこの二人が功労者として、農務長官表彰の栄誉を受け、K産組からも表彰状と副賞として、小楠には三星の耕耘機、神武には動力噴霧器をそれぞれ一台ずつもらったのである。この事が新聞に大きく報道されていた。
 「このアーリョもさ・・・・・もとを正せばこの俺がリオグランデから持って来たものだよ」「なに・・・なに・・・それはまたどうして」鹿さんは慌ててコップをテーブルに置いた」
 こうして大貫の長い話が始まった。
 十頭ばかりの乳牛を引き連れ、朝草を食わせるために馬に乗っている大貫の頭上を、先ほどから何十羽、いや何百羽の黒い影がかすめてとんでいく。
 「サッサッ、サーサー」その羽音はまるで天狗の団扇の風であおがれるような錯覚をおぼえさせ、身が引きしまり、雄大な早朝の雰囲気の中に五体を溶け込ませてくれる。
 三々五々、編隊を組んで、手を伸ばせば届きそうな高さを大型の鳥が翔んで行く、日の出にはまだ間がある。この水鳥は、大陸のどこにねぐらを持っているのだろうか。きっと何千年の昔から、この辺りの海浜には、ものすごい魚群が押し寄せ、おびただしいイワシの大群が鯨に追われて、砂浜に打ち上げられるということを知っているに違いない。
 大貫慶三、大盾勇の二人が移住したところは、ブラジルの最南端、リオグランデ州は、アルゼンチンとの国境に近いサンタ・イザベルという町のそばだった。この辺りは地図を見れば分かるように、広大なラゴアという自然湖あり、それが海と区別されるところは、国境まで砂丘となって延々何百キロも続いている。

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