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『百年の水流』開発前線編 第一部=北パラナの白い雲=外山脩=(55)

丘の上のアサイ市街地

丘の上のアサイ市街地

カマラーダが暴動

 1936年のことである。一夜、市街地で、一人のカマラーダが銃で殺された。その頃の所轄だったジャタイ署から警官が来たが、犯人不明のまま二日後、引き上げた。
 すると、西村組で働いていた二人のカマラーダが、ブラ拓事務所で「西村(市助)を出せ、西村を殺す」と喚き始めた。
 二人は西村宅、商店、ペンソン、居酒屋を襲い、拳銃、弾、商品を奪い、電話線を切り「日本人がブラジル人を殺し、犯人を隠した」と喚き廻った。この間、その仲間は8人に増えた。
 西村は偶々、不在であった。青年団が自警団を結成、武器を持って警戒に当たった。ジャタイ署に漸く連絡がつき、警官が駆けつけた。が、騒ぎは数日続いた。結局、暴徒は姿を消した。
 最初に騒ぎを起した二人と西村の間では、事件前、揉め事が起きていた。西村は、二人の山伐りの仕事が粗雑であったため、再三やり直しを要求、賃金を払わないでいたのである。彼は、そういう厳しい一面があった。
 それはともかく、これで、カマラーダの中には、危険な者が居ることがハッキリした。この頃、移住地では山伐りの他に、入植者の農場で働くカマラーダが増えていた。

開戦、迫害始まる

 1941年12月、日本が米英に開戦した。ブラジルが米英側につくことは確実だった。その場合、この移住地では、何が起こるか?
 それに備えて、ブラ拓事務所とトゥレス・バーラス産業組合が連名で、警告文を、全ての邦人宅に配布した。その中に次の部分があった。
 「……吾々が最も恐れる事は、無智なカマラーダ連の妄動に依って起こる不祥事で……」
 カマラーダの総てが、日本人に悪意を持っていたわけではない。が、持っている者もいた。(俺たちの上に立って、安い賃金で俺たちを使うジャポネース)と──。彼らは開戦直後から、不穏な放言をしていた。
 年が明けて早々、在クリチーバ日本領事館(前年5月開館)は、管内の邦人宛、通達を出した。その中に、こういう部分があった。(原文のまま)
 「……然る処敵性国人は総ゆる虚報を伝えて人心撹乱を策し又故意に我等邦人の神経を刺激する言動を為して邦人に挑み日伯両国の関係を悪化せしめんとする策謀あるやに聞き及び候に付各位に於かれては決してデマ宣伝に迷わされず又之等策謀の手に引掛らざる様細心の注意を払われ……」
 文中、敵性国人とは米英の工作員を指し、策謀は、在ブラジルの米英国人、ポ語新聞・雑誌、警察、一般人を使って行っていた。その策謀は、まずブラジル人と日本人の関係を悪化させることに的を絞っており、開戦と同時に始まっていた。詳細は拙著『百年の水流』改訂版に記した。
 1月28日、ブラジル政府は、対日国交断絶を宣言した。続いて29日、枢軸国人の取締令を、各州政府の保安局の名で公示した。内容は枢軸国人が「当該国語で記された文書を頒布すること」「当該国歌を唱し或は弾奏すること」「当該国独特の敬礼をなすこと」「多人数集合せる所、或いは公開の場で当該国語を使用すること」「保安局発行の通行許可書なくして旅行すること」「私宅内といえども私的祝祭の名義にて集合すること」「許可証を所持していても、武器を使用すること」など12項目に渡る禁止事項を掲げていた。
 さらに3月11日には、枢軸国人に対する資産凍結令が出、当局が指定する企業は、監察下に置かれた。経営者や管理職者が、ブラジル人に交代させられることもあった。個人は、銀行預金の引き出しに制限が設定された。

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