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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(16)

 木村氏は、帰国後さっそく有限会社を設立した。専門業者と提携して、有機栽培コーヒーや無添加ハーブティーの自動販売機を関東周辺に設置し、一時期は儲けたものの、やがて競争相手が現れ、市場の拡大は頭打ちになった。
「帰国して商売を始めた頃は、苦労の連続でした。最初は大久保の職安通りにあるビルに事務所を構えて、従業員を数人雇っていましたが、毎月きちんと給料を払うだけでも大変でした。住まいは、事務所のそばに安アパートを借りていましたが、仕事が忙しくて、寝に帰るだけという生活でした」
 木村社長の会社が大きく飛躍したのは、ティーバッグの加工業者と提携して、高品質かつ低価格のドリップ式コーヒーバッグの製品化に成功したからだ。
 この成功をきっかけに、会社も株式会社木村屋コーヒーに組織変更し、今では、焙煎からパッケージまでをコンピューターで管理するハイテク工場をフル稼動させ、インターネット時代に対応した通信販売戦略によって、日本中の客からの注文に応じている。
「大手があまり進出していない分野に目を付けたのが正解でした。それに運がよかったですよ。長年の苦労がようやく報われたと思いました。仕事がうまくいきだしてから、事務所と住まいは、大久保から西新宿に引っ越しました」
 木村社長は、話すほどハイな気分になり、仕事の話だけでなく、南米にいた頃の恋物語など、当時の私生活についても楽しそうに語ってくれた。
「私は、若い時分あまり遊ばなかったので、遅れてやって来た青春時代をエンジョイしようと思いました。あの頃つき合っていたセニョリータ(女の子)は、今頃どうしているかな、なんて、時々懐かしくなりますよ。余談ですが、いつか取引先の人とカラオケに行って、『五番街のマリーへ』とかいう昔の曲を聴かせてもらった時は、なぜか南米に残してきた彼女のことを思い出して、涙が出ました・・・」
「あっ、いいニュースを思い出しました。社長は最近、ある代議士先生のご令嬢と三年間の交際の末婚約されたそうですが、花の独身生活ともいよいよお別れですね。で、結婚式の日取りは?」
「その件ですが、実は、郵政の民営化に反対していた先生は、今度の総選挙で党の公認を得られず出馬を断念しました。もう政界から引退するそうです。当分は結婚話どころじゃないですよ。あっ、これは記事にしないでくださいね」
「そうですか。それは残念ですね。では、最後に、仕事について、これからのビジョンを聞かせてください」
 木村社長は、なぜか一瞬もの悲しそうな表情を浮かべたが、すぐに自信に満ちた顔と雄弁さを取り戻した。
「木村屋コーヒーを、グローバルなIT時代にふさわしい会社にしようと思っています。扱う商品もコーヒーやハーブティーだけでなく、南米産の健康食品などにも広げたいですね。これからの時代は、ただ汗水流して働くだけではだめで、世の中の仕組みをもっと勉強して、賢く商売しないと生き残れません。たとえば、金さえあれば、関連会社の株式を取得して傘下に入れる方が、一から会社を興すより手っ取り早いですよ。それから、本社を六本木か赤坂あたりに移すのが夢です。今の会社の名前は前近代的でダサいので、もっとカッコイイ名前に変えたい」
「なるほど」
「あっ、これもオフレコでお願いしますが、私は来月から六本木ヒルズのレジデンスに引っ越す予定です」

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