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殺人か、自殺か―犯罪大国と自殺大国の悲しい比較

サンパウロにおける2010年までのリンチ事件の被害者数(Fatais=死亡、Feridas=負傷、出典=http://g1.globo.com/politica/dias-de-intolerancia/platb/)

サンパウロにおける2010年までのリンチ事件の被害者数(Fatais=死亡、Feridas=負傷、出典=http://g1.globo.com/politica/dias-de-intolerancia/platb/)

 地理的な位置条件、勤勉性、ウソの是非に関する考え方など、日本とブラジルはいろいろな意味で逆だが、先日ニューズウイーク日本版サイト(www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/07/post-3779.php)を見ていて、もう一つ加わった▼昨年7月21日付、舞田俊彦武蔵野大学講師が書いた記事中にある表1「主要国の殺人率と自殺率」だ。主要7カ国の殺人率のトップはブラジルの23・3人(10万人中)、日本は0・4人と最小。自殺率のトップは韓国の31・7人、2位が日本の23・4人、ブラジルは最下位で4・8人。とはいえ、ブラジルで殺人が、日本では自殺が多いことはすでに有名だ▼ここからが舞田氏の本領発揮、「内向率」という新しい指標を作った。《各国の国民がどれほど内向的かを推測する尺度で、殺人と自殺の総和に占める自殺の割合》を%で示している。つまり、「誰かを殺さなければ」と思い詰めるほどの事態が発生した時、その原因を他人のせいにした場合は「殺人」となり、自分が悪いと内向的に考えた場合は「自殺」となるとの発想だ。その判断性向が、外向き(殺人)か、内向き(自殺)かの傾向を指標化したもの▼この内向率でトップは日本(98・3%)、最下位はブラジル(17・8%)となり、完全に真逆の性向を示す。つまり、「誰かを殺さなければ」という危機的状況になった時、ブラジル人は他人のせいにし、日本人は自分のせいにする傾向がはっきり現れている。これほど哀しい国民性の対比があるだろうか…▼舞田氏は《殺人と自殺の総和を極限の危機状況の合計とみなすと、日本ではそのほぼ全てが自殺によって処理されている。一方ブラジルでは、危機打開のための攻撃性の8割以上が「外」に向けられている》と結論し、《この「内向的」な国民性の上に政府があぐらをかいていないか、国民は絶えず監視の目を向ける必要があるだろう》と書く。何事も〃上様〃のせいにして警告するのも日本人らしい。ブラジル人なら政府などに端から頼らない。いや頼れない▼そこで思い出すのが日伯の死刑制度の違いだ。当カトリック大国は死刑に絶対反対だが、日本は粛々と執行してきた点で逆。でも実は伯国でも執行していた時代があった。だいたい東洋街のリベルダーデ広場は黒人奴隷の絞首刑場だった。「天国で自由(リベルダーデ)に」という皮肉が名の由来だ▼11年4月28日付UOL記事によれば、伯国最後の正式な死刑執行は帝政時代の1876年4月28日。主人夫婦を殺した奴隷が絞首刑に処されたケースだ。以来140年も行われていない。「大したものだ」と一瞬は感心する▼でも、グローボニュース電子版15年9月7日付によれば、伯国警察は米国に並んで、最も犯罪者を殺す警察だ。伯国では《2012年だけで5万6千件の殺人事件が起き、14年ではその15・6%は警察が引金を引いたもの》とある。ある意味、公的権力による裁判なき死刑執行だ▼さらにBBCブラジル15年7月24日付電子版によれば、1980―2006年に全伯で1179件のリンチ事件が起きた。大聖市圏だけで1980―09年までに589件だ。被害者の多くは、何らかの犯罪者と地域住民に認識され、「警察が捕まえないから自分達の手で」とリンチに処された。死んだケースも多く、死刑でなく「私刑」だ。警察による「裁判なき死刑」も民衆の「私刑」も日本にはほぼない▼ブラジルでは問題の原因を徹底的に「他人」に求め、しかも〃超法規〃的に解決しようとする傾向があるようだ。遵法精神の塊のような日本とは、この点でも真逆といえそうだ。(深)

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