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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(27)

「外人は、セット料金しか払わないのが多いの。たまに女の子を指名するけど、ボトルを入れないし、長い時間いても金離れが悪いから、店にとっていい客じゃないってことかなー。日本人の客だったら、カイシャの・・・何てったっけ、そう、『セッタイヒ』とかいうのを使ってさ、セットに入ってない高級なお酒を何本もとってさ、パーっとお金を使ってくれるわ」
「でも、外人は、店が決めたやり方で、お得な料金で楽しんでんだから、別に悪いことしてないよね」
「まあ、聞いて。ここからが本当の理由。実はねー、こんな店に来る外人って、女の子の扱いがうまいの。日本人の男と違ってさ、優しくて紳士的だし、話題は豊富だし、当然英語はうまいし。フリーで初めて来た外人に口説かれて、その気にさせられちゃう子も多いわ。外人と外でつき合い始めて、それっきり店に来なくなった子も何人もいたらしいわ。店にとっては、ケチでスケベな外人の客は迷惑なのよ」
「なるほど。そうすると、外人みたいに振舞う日本人も、店にとってはいい客じゃないということか」
「でもね、あたしー、商売抜きでお酒飲むなら、外人みたいな男がいいな~。日本人の、特に、カイシャの男っていうのはサイテー。女の子に名刺渡して、自分はどこそこの偉い人間だとか、自慢するの。カイシャの金使って、高いボトルとって、女の子をたくさん呼ぶけどさ、話はつまんないし、自分たちだけで仕事の話なんか始めたりして、しらけるんだよね~、もう・・・」
 それから本題に入り、この店で数年前に人気ホステスだった「エバ」という女について、知る方法がないか聞いてみた。
「この間、電話で言ったけどさ、昔のことだったら、ベテランのお姉さんに聞くのがいいんだけど・・・、今日はあまりいないねー。あっ、エレーナさんがいる。ほら、あそこ。壁際に立って、店の若いのと話してる人。」
「今、フリーなら、呼んでくれるかな」
「いいけどさー、場内指名料と・・・あの人しっかりしてるから、ボトルとらされちゃうよ」
「まあ、情報提供料だと思えば仕方がないか」
 ジュリアーナに呼んでもらった白いドレスの女は、ペルーから来た日系人だった。小柄な体に「赤ちゃん肌メイク」が決まって、若く見えるが、実際の年齢は30以上か。
 女は、私の顔をチラッと見るなり、ジュリアーナの方に視線を移してささやいた。
「あらっ。外人さん?」
「いえ、違うの。みんな、ジュリオさんって呼んでるけど、南米で儲けてきた日本人よ。あたしのアミーゴ(友達)」
「ホント~! はじめまして。エレーナです。よろしくお願いしま~す。ワタシ、ラティーノ(ラテンの男)みたいな人ダーイ好き。お隣にいいですか?」
その女は、返事を聞く前に、私の横にピッタリと座った。そばで見ると、小悪魔的なかわいい顔をしているが、目が何かを企んでいる。
 ジュリアーナは、先輩のお姉さんに遠慮してか、向かいのソファに移動した。
 妖艶なセニョリータ(女の子)たちと、気の利いた会話をしたいが、今日は「トドス・アミーゴス(みんな友達)」の会の代表のつもりなので、「公私混同」はしないと決めていた。
 私は、さっそくエレーナに、以前クラブで働いていた、源氏名をエバというホステスについて知らないか尋ねた。
「エバ? あっ、カロリーナですね。もちろん覚えてますよ。私も彼女も、南米出身で仲良くしてましたから。えーっと、話すと長くなりますから、シャンペンでもどうですか?」

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