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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(49)

「リカルドは、誰かさんと違って、家族の愛情に恵まれて育っただけ幸せだよ」
「木村社長は、相変わらず金儲けに忙しいのでしょうか? 死んだカロリーナがあの人に残したメッセージのことは忘れたのかな・・・」
「忘れてないよ。結局、人生で一番大切なのは、金とか社会的な地位がなくなっても、最後に自分に残るものじゃないか。どんな時でも自分を愛してくれるような人は、この世で一番大切にしなきゃいけないよ。木村社長はいつも寂しいから、誰かに愛してもらいたいんだ。でも、人から愛されたければ、自分もちゃんと人を愛さなきゃ。彼は家族の愛情に恵まれずに育ったから、人を愛することの意味が分からなかったようだけど、カロリーナが命と引き換えにそのことを教えてあげたと思うよ」
 酒のせいで、また例の説教癖が出て来たと思ったので、口を塞いで自重していると、リカルトがポツリと聞いてきた。
「ところで、ジュリオさん。僕の相談にこんなに親身に付き合ってくれたのはなぜですか?」
「うーん。なぜだろう・・・たぶん、私も木村社長みたいな人間だったからかな」
               
***
 
 2005年最後の日曜日は、一人寂しく過ごすクリスマスになった。
 クリスマス休暇に中国系アメリカ人の婚約者と日本に来ると言っていた息子は、予定を変え、彼女の家族や親戚と一緒に過ごすことにしたらしい。中国系の移民社会では、親族の結束が固く、大切な日には一族で集まる習慣まだ残っているらしい。そう言えば、かつて日本人の移民社会にも、老若男女何世代かが集うそんな習慣があった。
 その日曜日も、いつも通り朝寝坊して起き、ソファに座って『木村屋コーヒー』を飲みながらボケッとしていた。BGMをどれにしようか迷ったが、その日の気分には、ケニーGではなく、昔のジャズナンバーであるビル・エバンスの『My Foolish Heart』あたりが似合っていると思った。
 人生この年になって、子供だけではなく、年寄りが本当に必要なものも、家族の愛だということに気付いた。
 一杯のコーヒーのおかげですっかり目が覚めたので、いつもの習慣でパソコンを開いてログオンすると、サンパウロのセルジオ金城からメールが届いていた。

 親愛なるジュリオ。日本は寒い冬の季節だと思うが、こちらは真夏のクリスマスシーズンだ。
 ところで、今ではどうでもいい情報かもしれないが、一応伝えておく。
 木村社長が一週間前からサンパウロに来ている。商談で来ているはずだが、なぜかカロリーナが住んでいたマンションに入り浸っている。
 前のメールでも報告したが、そのマンションではアナが、妹のカロリーナと木村社長との間にできた子供ペドロを育てながら住んでいる。美人の姉妹二人とできてしまうなんて、木村という男はまさに日本人の顔をしたラティーノだ。
 話は少し複雑だが、東京のブラジル総領事館から自分の死亡届が送付されたため、法的にこの世からいなくなったアナは、これからは妹のカロリーナになり代わって生きていくしかない。つまり、木村社長のかつての恋人アナは、現在はカロリーナと名乗って生きている。おおらかな南米では、何でもありだ。
 そして、カロリーナと木村社長の間にはペドロという一人息子がいることになっている。実は俺、本業が暇なんで、例の公証役場に行って、そこの役人にクリスマスプレゼント代わりのチップを渡して、ペドロの出生記録を見せてもらった。両親の欄には、父親「ケン・キムラ」、母親「カロリーナ・サントス」と正式に登録されていて、父親の方には「木村健」と日本語でサインがしてあった。
 親子三人は、これから「家族」で楽しくクリスマスを過ごすらしい。
 ではまた。ジュリオにも、楽しいクリスマスとよいお年を!

「家族で楽しくクリスマスか。羨ましいね・・・」

〈FIM〉

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