今月10日から11日に掛けてアスンシォン市、ヴィリャ・アウレリア区の当局に依る民家立入検査で各種大口径の銃器及び弾薬の他に爆弾、爆発物や導火線等の付属品が大量に押収された事件について、12日(金)に召集の合同記者会見で、SENAD・国家麻薬取締局のルイス・ローハス長官はこの驚くべき事件は恰も「一大武器闇スーパーマーケット」の発見だと形容した。
詰まり、パラグァイで法的に武器貿易会社を設立し、これによる一部の正規な市販火器の取引を〃隠かくれ蓑(みの)〃とし、後の大部分の密輸やアルゼンチン又はボリビア等の軍隊からの盗品銃器の密売をカモフラージュして暴利を貪ると云った手口で、この中の重要な部分は犯罪組織暴力団の手に渡っている。
そして今回は、この武器類大量の接収で多くの人命が救われたと思うとルイス・ローハス長官は付言した。
いわゆる『武器闇取引に関しては、国防省管轄のDIMABEL・軍用資材管理局が武器貿易商の取り締まりに一応は当っていて、我々はこの裏で暗躍する複数の有力関係者が誰かは把握している』と、同長官は語った。
一方、国家検察総局のハビエル・ディアス・ヴェロン長官はこれ等大量の強力な各種銃器、弾薬、爆薬等々は実に絶大な危害を市民に侵し得る脅威的なもので、学徒の暴力犯罪に対する予防知識啓蒙の教育資材に利用する考えもあると述べた。
しかし、現段階では事件の調査過程の事情で、更なる詳細の説明は避けた。
年に3万丁の密輸銃器がブラジルへ渡る最近のアスンシォン市ヴィリャ・アウレリア区に於ける「一大武器闇スーパーマーケット」の発見は、いかなる規模でパラグァイでこの種の闇取引が旺盛に発展して居るかを如実に物語るもので、過去最大の密輸武器没収の実績である。
パラグァイにおける、かつてからの犯罪活動を既に指摘していたのは、1987年のノーベル平和賞に輝いたコスタリカ元大統領オスカル・アリアス氏の「平和財団」発行の2010年度報告書である。
ブラジルの恐るべき犯罪暴力団PCC(Primer Comando Capital)やCV(Comando Vermelho)等が其の主な仕向け先で、また此れ等夫々は麻薬密輸にも大いに関わっていて其の活動は日増しに勢いを増してはいても決して衰える事はない国際犯罪である。
「武器密輸の〃蝶番国(ちょうつがいこく)〃パラグァイ報告書」によると、パラグァイは隣国などの闇市宛に再密輸出の為の大口径軍用武器や自動小銃類を正規に輸入すると同時に大量の火器等々を密輸出入する中継役を果す「蝶番国」だと断じている。
なお、サンパウロ市とリオ市に夫々本拠を置く「PCC」及び「CV」各暴力団はパラグァイのブラジルとの国境に接するアマンバイ、カニンデジュ、アルトパラナ県に各々支部を戦略的に設置している。
ブラジル連邦警察は最近2年間にエステ市からの2万丁に及ぶ密輸の大小火器、銃器を押収しており、アリアスの「平和財団」の推計では全体では凡そ毎年3万丁の各種火器がパラグァイ各地の要衝経由ブラジルに不法導入されていると見ている。
内務省の人権局によれば、パラグァイ全国で正式に登録されていない銃器は70万丁に及び、一方国防省のDIMABEL・軍用資材管理局では国境地帯に於ける民間所持の火器取締を徹底する能力に欠けると云う。
ちなみに、同報告書によればパラグァイで正規に登録されている民間警備会社は210社存在し、その雇用ガードマンは2万4千人に達し、実働警官1万名の倍以上の要員数である。
□ブラジルとの国境紛糾地帯□
国境地帯に於ける違法な武器取引は、麻薬、偽造タバコ、ITや電子製品の密輸と共に犯罪組織暴力団にとって実に暴利をもたらす儲け仕事で、とりわけブラジル、アルゼンチンとパラグァイの三国国境間のエステ市はその代表的中心地である。
これに続くのがサルトス・デル・グアイラ市(カニンデジュ県)とペドロ・フアン・カバリェーロ市(アマンバイ県)だ。
これ等の都市では武器類を普通に販売する商店が無数にあり、誰でも観光客として身分証明書や旅券一つで、またはそれさえ無くても、例えばイスラエル製のUZI機関銃を1500ドルで自由に購入できて、自国へ密輸で持って帰れる。その際自国の税関で没収の目に遇うかどうかは各自の責任問題だ。
ブラジルの連邦警察は、三国国境のパラグァイ地域をサンパウロ市のPCC及びリオ市のCV各犯罪組織暴力団最大の武器類調達元と看做(みな)している。
連邦議会のCPI(国会調査委員会)はブラジルの武器類密輸の66%から80%は隣国パラグァイからの導入に依存したもので、その方法は小火器の場合はトランクの衣類品の中に紛らせて持込むか、大口径の大型武器は分解してトラック等で運び込み、目的地で組み立てる等、色々な工夫が為されていると説明する。
パラナ州のルイズ・フェルナンド・デラザリ公安長官は、大量の麻薬と不条理な膨大な量の武器類の密輸があいまって各都市圏の犯罪をより増大させていると憂慮の念を表した。
□最も多く取引される密輸銃器の種類□
平均して、国境地帯で1キロ5千ドルで仕入れたコカインは、リオ市又はサンパウロ市ではその3倍の1万5千ドルになる。
くわえて、エステ市、サルトス・デル・グアイラ市やペドロ・フアン・カバリェーロ市の闇市場において3千ドルで購入した口径762ミリのライフル銃はリオ市或いはサンパウロ市に持って行けば2万ドルで売れる。
パラナ河上の「友情の橋」の近くのエステ市税関で接収された密輸武器、火器等を見ると口径9ミリのMagnumピストルの他に12ミリ口径の散弾銃、自由販売の拳銃や弾薬、市販禁止の民間では使用が制限されるAK-47、M-16、Galil・G3、ミニガン・UZI等の攻撃・戦闘用自動小銃以外にパラグァイ国軍の武器庫より盗まれた対空高射重機関銃までがリストアップされている。
調査の示す処ではパラグァイの国軍は台湾製のM-16、ベルギー特許でブラジルIMBEL製のFN・FAL小銃、ドイツ製のKoch・G3 Heckler小銃やスイスのライセンスでチリのFAMAE社が生産するSIG小銃等で武装されている。
パラグァイでは、武器は製造せず軍部はチリとベルギーのアドバイス、指導の許に小規模の銃弾製造を行っているに過ぎない。
ブラジルの暴力団に渡ったパラグァイ国軍の装備に属する多くの武器が連邦警察の捜査で没収されたが、その中には申訳の管理下ながら正規に購入されたアルゼンチン、ブラジル、イスラエル、中国、スペイン、イタリア及び南アからの各種銃器、火器が含まれていた。
なお、いかにしてパラグァイへ密輸武器類が導入されるかは、主に香港からブエノス経由エステ市のグアラニ国際空港へ至るルートが選ばれる。
そして、密輸麻薬の場合は主に火器や弾薬等に平行してコロンビアのFARC・人民武装革命軍の勢力下地域とボリビアのコカ生産地域の経路を利用し小型機でパラグァイにコカインや武器を持込むと云ったスキームである。
パラグァイが各種密輸物資の小型機に依る集散地として犯罪組織暴力団に好んで利用されるのは、未だに全国航空管制を充分に行えるレーダ網施設が整っていない弱点をつかれているからである。
もちろん、一方では保安、軍部や政府各当局の厳なる取締が求められる問題であるが、残念ながら政府各層に蔓延する腐敗で、それが完全に連携機能しないのが難題なのである。
この度の、「一大武器闇スーパーマーケット」事件の発覚が多々なる国家問題の大きな改善運動の一つの発火点になればと、憂国のパラグァイ人なら誰しも切に願うに違いない。