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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(37)

「まあ、あまり驚かないでくれよ」
 私が、「エル・パライーソ」で法外な料金と引き換えに得た情報を、要約しながら話している間、リカルドは、もくもくとシュラスコを食べながら黙って聞いていた。
「で、現時点での私の推測だが・・・」
 シュラスコで一杯になったリカルドの口の動きが止まった。
「君が結婚したのは、きっと、アナと名乗っていたカロリーナだよ・・・」
 リカルドの目が白黒し、ビールを一口飲んで、のどに詰まった物を体の中に流し込んだ。
「君の奥さんが、前に日本にいて、ブラジルに強制送還されたカロリーナだったと仮定すると、すべて辻褄が合うんだ」
「でも、どうやってまた日本に・・・」
「そいつは、すごく簡単だよ。カロリーナは、姉のアナが作ったパスポートを貸してもらって、自分はアナになりきり、君と結婚して、また来日したんだよ。双子で、顔と背格好がほとんど同じっていうとこがカギだな。きっと、ブローカーの守屋っていう奴の悪知恵だろう」
「でも、すごくリスクがありますよね」
「そりゃもう。ブラジルを何とか出国しても、日本の入管は、強制送還したカロリーナの写真や指紋を情報としてもってるからね。でも、外人が日本に入国する時は、指紋は取られないし(2005年6月時点)、カロリーナ・サントスとアナ・バロスじゃ、名前も苗字も違うから、もし怪しまれても、よく似た外人だなと思われるくらいだよ」
 それから、二人とも、ほとんど無言でランチを続けた。リカルドは、何かを考え、そして思い出している様子だった。
 そんな雰囲気で食事をしていると、二人ともメイン料理だけで腹が膨れてしまい、休日の南米のランチには付き物のデザートは抜きにして、食後のカフェジーニョ(小さなカップに入ったブラジル風の濃いコーヒー)だけを頼んだ。
 注文を取りにきた店のオーナーは、はじめは陽気に話していた二人の男が、デザートをスキップして深刻な顔をしているのを見て、肩をすくめ、心配そうな顔をしてカウンターの向こうに戻って行った。
 すぐに出てきたカフェジーニョに砂糖を一杯入れ、そのままかき混ぜずに一口すすると、リカルドはため息をつき、よくやく口を開いた。
「ジュリオさんの話を聞いて、いろいろなことが分かりましたよ。僕の妻、つまりカロリーナが、入国審査の時ひどく不安そうだったのは、前回の強制送還に懲りずに、今度は不法入国しようとしたからだ。日本で生活するコツを知っていたのは、前に暮らしたことがあるから当然だし、彼女が死んだあとに、守屋さんや母親役の女性が急によそよそしくなったのは、自分たちがグルになってしたことがばれるのが怖かったからだ。僕も結果的に、彼女の不法入国の手助けをしていたわけだ・・・」
「それから、君たちが男と女の関係になった、九月二日だけど」
「妻の母親の誕生日?あっ、そうか。その日はカロリーナの息子の誕生日ですね。彼女は、その日の夕方ブラジルに電話をしたと言ってましたから、きっと息子の声でも聞いてうれしかったのでしょう。ケーキに立てた三本のろうそくは、息子の三歳の誕生日という意味だったんですね」
「それから、ちょっと立ち入った質問をするけど、奥さんといい仲になった時、子供を産んだ体だとは思わなかったかい?帝王切開の手術跡とかには気付かなかった?」
「前にも言いましたけど、彼女は、僕が知っている唯一の外人の女ですし・・・」

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