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ニッケイ俳壇(886)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

念腹の残党奥地の虚子忌わする
山鳥が鳴く移住地に蕎麦を蒔く
咲き満ちて百日草が今主役
我を見ており鰐の眼のまたたかず
春惜しむ角笛を吹き鳴らすなり

【いよいよ百才をむかえられた稚鴎さん。必ず投句を忘れずにして下さる。物忘れがひどいとは云われるが】

   プ・プルデンテ       野村いさを

鬼も嗤え三年日記買って来る
秋めくやウルブの群も高く舞ふ
牛も家族も元気と秋の牧便り
ビルの角曲ればいまだ残暑かな
一と粒の種しるけきや麦芽生む

   サンパウロ         湯田南山子

曽孫の四人で分けよチョコ卵
青空をわが物がおに棟の実
けつまずき歳には勝てぬ老の秋
病む子規の親しみ詠める長糸瓜
背なこするメートル糸瓜の運命かな

   ソロカバ          住谷ひさお

古本市へバス百キロの秋の旅
五十人の市開き待つ紙魚の本
一冊が二レアルは嬉し紙魚の本
全集より一冊求む紙魚の本
ムシーラに満ちし紙魚本よっこらしょ

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

平凡に生きて卆寿をよろこばれ
己が影踏み散歩とや秋日和
日向ぼこ二日当りの場所探し
休暇明け潮引く如く子ら散ってゆき
吾より先に逝った人にあの世の事を聴きもらし

   サンパウロ         鬼木 順子

秋歩道米粒ほどの枇杷の花
秋の昼白粉花の道の辺に
枝葉付き山と積まれる新生姜
歩道には風に吹かれて紅芙蓉
秋の夕空群青に月照りて

   サンパウロ         寺田 雪恵

白き風切るように飛ぶ秋燕
空高く思案あり気な赤とんぼ
つきまとう猫おらねば探す秋の庭
ブラジルの土となりし秋母恋し
風の中で無心に遊ぶ枯葉かな

   マナウス          東  比呂

霧上がる大河に漁の舟の数
河岸宿の今がメインのパク料理
大山車の夜々に高まるカルナバル
カルナバル飲む人見る人踊る人
秋の燈や星の一つに数えられ
釣り人の釣り具見せ合う秋灯下
老移民相撲見昔なつかしむ
さるすべりの花に囲まれ孫祝う

   マナウス          宿利 嵐舟

振り返り名残り惜しめば霧時雨
霧の中去り行く影も見え隠れ
あなうれし朝顔今朝は三つ咲き
暘に熱狂響くカーナバル
秋燈下また読み返す故郷便り

   マナウス          河原 タカ

行き過ぎる霧に消えたるマラソン選手
霧の中握りしめたる濡れ手紙
南国の朝顔毎日開きたる
大相撲左右にゆれる大いちょう

   マナウス          松田 永壱

パクー釣る食卓飾る夕餉どき
朝霧のうすら身体に涼を呼ぶ
年間の稼ぎつぎ込みカルナバル
サンバ踏む人種のルツボ軽やかに
初場所の日本国技ヒーロー力士
復活祭老いも若きも無信仰

   マナウス          山口 くに

遡航する合図の霧笛霧の河
パクー捌く世帯上手なマナウァーラ
何もかもカルナバル済んでからの事
秋の灯にしおりひもとく岩波新書
秋灯下ジュート移民の歴史悲話

   マナウス          村上すみえ

河霧にぽとぽと上る灯し船
霧濃ゆく大海も島も無き如し
老夫婦狭庭に朝顔愛でていし
揚げパクーフロリンニャとサラダの昼弁当
サンバ山車曳く男等の力かな
発ちてすぐ狭霧に消えし機影かな

   マナウス          橋本美代子

朝霧に漁のカノアの声湧く関が原
マナウスの雨にたたからるカルナバル

   マナウス          丸岡すみ子

テールランプ連なる先の霧の街
冷気満ち霧に眠れる樹海かな
うすき身を外すも楽しパクー食ぶ
ジカ熱も不況もさておきカーナバル
酔いしれる自慢の衣装やカーナバル
朝顔や今朝も増えしと子の笑顔
パクー焼く脂の香りも旨きかな

   マナウス          渋谷  雅

別離の夜霧に消え行くテールランプ
交替でハンドルにぎる霧の夜
霧の朝旅立つ娘の無事祈る
カルナバル老若子供サンバ踏む
空しさと疲れの残る聖水曜
秋灯下開拓話に花が咲き

   マナウス          阿部 真依

霧が晴れマチュピチュ遺跡に息を呑む
パクー食べ嬉しくなって写真撮り
朝顔より早起きしてはジムへ行く

   パリンチンス        戸口 久子

アマゾンの樹海霧に包まれる
朝顔や朝日を浴びて満開す
秋の灯やアマゾン大河目の前に
キリストが三日後十字架復活祭

   サンパウロ         小斉 棹子

一世は殿となり虫を聞く
蜩や位牌ライター鰯雲
クリストの紅い涙も散り終る
かりがねの行かねばなりぬ旅なりし
縛られるなき身を縛り秋深む

   サンパウロ         児玉 和代

身じろがず居るは老いしか小鳥来る
足重き燃ゆる残暑の夕茜
記さねば跡形もなきホ句の秋
熱中すことのなくなり夜長の灯
四月馬鹿たあいなくとも嘘は嘘

   サンパウロ         西谷 律子

秋暑し監視カメラのまわる部屋
大切に日々愛おしくかぼちゃ煮る
くらき世を笑いとばして四月馬鹿
友の名をまた消す手帳秋灯下
なた豆の力強きに励まされ

   サンパウロ         馬場 照子

天災は地球の呼吸萩の声
馴れ合ひの不正の大地身に入むや
国家洗浄神に祈りし復活祭
浮世のタブーこれほどまでにそぞろ寒む
山ほどのチョコ玉売れず児等不信

   サンパウロ         西山ひろ子

記憶より小さく近き柿の店
秋灯を低く遺句集手に取りぬ
夜更しの身に疎ましき残暑かな
完敗の尚更暑き秋の午後
まとひ付く風心地良き今朝の秋

   ピエダーデ         小村 広江

耕やして新涼風と共にあり
星涼し星座きらめく星住居
老いて今一人は淋し月見豆
立秋と云う青空の広さかな
つややかな広葉に映える石蕗の花

   サンパウロ         平間 浩二

久々の旧知の出合ひ新酒酌む
透き通る熟柿に銀のスプンかな
群れ咲きて戯る風の秋桜
朝露にひしめき合いて貝割菜
旅終えてほっとひと息鰯雲

   サンパウロ         太田 英夫

片言のヤスイウマイは鰯売
浅漬の重石となりぬ丸南瓜
椰子帽子やぶれ穴から覗く髪
虫の音や聞いて居るよな寝てるよな
名は捨てて値段で選ぶ今年米

   サンパウロ         大塩 祐二

涼やかな風街路樹をくしけずる
ミサ前の鐘の音澄みて秋の朝
背高くなよなよ揺れる秋桜
浮雲の白さ目にしむ秋の空
浮き雲のゆったり渡る残暑かな

   サンパウロ         大塩 佳子

秋暑く背に汗にじむリクサック
秋の日の今も妻恋う句美しき
祖母作るきりたんぽ鍋吾を待ちて
スマホ学ぶ媼ら尊し秋の午後
オクラ買う通じ良くなるすぐれ物

   サンパウロ         川井 洋子

何もかも忘れて居たし虫の闇
コスモスの群に見る風の道
すこし老い身に入む風に季節問ふ
次世代が次ぐ復興天高し
秋霖や老いては涙もろくなり

   サンパウロ         柳原 貞子

犬も吾も好む道あり露に歩す
すこし風ありてコスモス日和かな
あまりにも月美しく眠りえず
コスモスを活けて野の風誘いけり
秋草を活けて野に在る心地かな

   サンパウロ         西森ゆりえ

移住地に残るは柿の古木のみ
ただ歩くだけに来し野や鰯雲
育てたる子にいさめられ秋思かな
新涼や吾がつぶやきを犬が聞き
ひまわりや少女はついも気取りなく

   サンパウロ         原 はる江

秋冷を連れ来る雨を待ちわびて
此の残暑伏す友の身思ひ居り
火焔樹の落花を踏みつ朝の市
秋澄みてドライブ痛快モジ街道
老いたれば孫等が呉るオボデパスコア

   ヴィネード         栗山みき枝

雨多し里径土手の草いきれ
老の食又細り居て詮もなし
牧の暮動くともなく牛の群
物価高買物毎の値上りに
姉妹けんかする程仲が良い

   サンパウロ         武田 知子

桃剥ぐや汁肘まで滴たらせ
偲ぶ人遠き人あり秋彼岸
朝茜褪せて秋空澄みにけり
日溜りに秋思の種を置きにけり
芋の露星影吸いて眠り居り

   サンパウロ         児玉 和代

吾が無力骨身にしみて秋暑し
新涼や薬忘れて一と日過ぐ
身ほとりの欠けゆく隙間秋の風
雲高く流れうすれて秋の風
秋の風日差しさえぎり髪吹かる

   サンパウロ         西谷 律子

ひまわりをゴッホの絵のごと活けてみる
街踏樹のパッサリ切られ天高し
秋風やひしひし不況おしよせぬ
舞ひ落ちぬ木の葉にも似て秋の蝶
天の川夜目にも高き大教会

   サンパウロ         西山ひろ子

遙かなる人への思いしぐれ虹
黄コスモス風の余りの絶えまなし
あるがまま天命生きむ秋うらら
何しても根の続かむ夜長妻
草の花風の流れにのり易き

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