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ニッケイ俳壇(871)=富重久子 選

   コチア           森川 玲子

良き名持つ句集「蜂鳥」かずまの忌
【「蜂鳥」は、かずまの最も好きで愛した鳥であった。俳誌を創刊出来る時が来たら、きっと「蜂鳥」と命名すると言っていたが、創刊した俳誌「蜂鳥」もいよいよ来年は三十周年を迎える。
 「良き名持つ」と一句にまで詠んでくれる誌友もいて嬉しい限りである。亡くなる前年の、俳句文学館発行の「俳句カレンダー新年巻頭句」に
『蜂鳥の二羽ゐて舞へる大旦  富重かずま』
が掲載されて大変喜んでいたことが思い出されるが、つくづく時の流れの速さに驚く】

子の家へ泊り参ずるかずまの忌
【二句目、少し遠隔の地で農業を営んでいる作者は早朝のかずま忌に出席するため、町住みの子供の家に泊まり込んでかずま忌に出席した、と言う俳句であるが、どの句にも、適切な省略を利かせ内容豊かで、格調高い俳句揃いであった。新年の巻頭俳句として推奨し鑑賞して頂きたいと思う】

曇り日のおしゃれで被る夏帽子
空青く句会への道百日紅
雨あがり大き残月桐の花

   サンパウロ         間部よし乃

折り畳む夏の帽子は旅の友
【ブラジルではあまり帽子を被らない国だなと思っていたが、自分が同じように帽子をあまり被らなくなってしまった。
 この句、「帽子は旅の友」とあるが、作者はよく旅行をするのできっと折りたたみの愛用の帽子があるのであろう。手鞄に旅の帽子があれば何時でも取り出して被れる。親しみを込めて「旅の友」とは、まことによい言葉の選択であった】

草取ればみみず慌てて跳ね回る
クリスマス三姉妹にもサンダルを
大雨の去りて師走の町明り

   サンパウロ         近藤玖仁子

星づく夜恋には遠き歳となり
【かのドイツの作家、ゲーテは八十歳で恋をしたと言う有名な言い伝えがあるが、人間は誰でも幾つになっても、若々しさは失いたくないものである。
 「星づく夜」と言う浪漫的な季語を据えて、却ってまだまだ詠み人の若々しく感じられる佳句で、何時までも若き日の夢みたあの感激を忘れないで胸を張っていきましょう】

ふと思ひ出すことのあり古日記
母親に似て来し孫や年の暮
聖夜には師にラブレター送ろうか

   ボツポランガ        青木 駿浪

病妻の闘病日記夏に入る
【「病妻を看取ってもう七年になります」といわれた事があるが、本当に大変であろうと 思われる。しかしこうして病状を毎日丁寧に日記に書きとめておられる事も、作者には当たり前のように俳句にも詠まれて、何時も感慨深く読まして頂いている。
 毎日が平穏で、作者にも幸せな新年を心から祈念するものである】

苔青きマンチケーラの奇岩かな
分水嶺初夏の青空景伸びる
万緑の景がいざなふ美術館

   サンパウロ         松井 明子

暫くは肩に止まらせ天道虫
【街住みになってからは一度も「天道虫」を見た事がないが、可愛い昆虫である。
 この句のように、暫く肩に止まらせたまま眺めていると、肩を行ったり来たりと動き廻っていたがそのうち可愛いきれいな羽をぱっと広げて、飛んで行ってしまう、という句であるが、何となく楽しい佳句である】

月下美人話ばかりで知らぬ花
日傘の樹憩ひの場所となりにけり
夏帽子一つひとつに歴史あり

   サンパウロ         上田ゆづり

森林の奥に聞こゆる滝の音
【近年俳句を始めたという作者である。
 この滝の俳句は、正しく森林の奥から微かに聞こえて来る清々しい滝の落下する音である。実際にその音を頼りに森林深く尋ねていくと、緑に囲まれた森の中ほどに清らかな美しい滝が、音を響かせ飛沫を上げながら滝壷へ落ちていく光景を見る事ができる。
 美しく的確な写生俳句である】

幼子に大き過ぎたる夏帽子
追はれつつ鋏かざして平家蟹
天運に命ゆだねて去年今年

   ソロカバ          前田 昌弘

夏の月路線伝ひに人と犬
【月の最も美しいとされるのは秋とあって、月は「秋の季語」となっている。
 しかしこの句の、路線を歩いて家路をたどる「人と犬」のような場合の月は、飼い主と楽しそうな犬の様子が想像されて、選んだ「夏の月」が動かない季語の選択で立派な俳句となって成功している。夏の月夜の俳句で珍しい佳句であった】

雨の園人影も無く蒲の池
処女林のユーカリ木肌脱ぎ初めし
夏の月街燈だけとなりし路

   スザノ           畠山てるえ

句を揃へ歳時記も閉じ年惜しむ
【毎月の句会に俳句を作ってきたが、今夜は今年最後の忘年会の八句、やっと揃った俳句にほっとして歳時記を閉じる作者の様子。
 もう幾日も無い今年を振り返りつつ、「年惜しむ」作者の姿のみえる様な佳句であった】

集まりて思ひ一つにかずまの忌
鉢植ゑの桑の実を捥ぐ日に数個
返信なき暑中見舞に胸痛み

   サンパウロ         山本 紀未

遠く来て移民落ち着き大夏野
【今はもう日本から「移民」を送り出すこともなくなって、移民が移住となっている。
 その昔、大きな希望を持ってやってきた先住民の方々の苦労は、落ち着いたこの「大夏野」との戦いであったのかも知れない、とふとそんな事が胸をよぎった作者であろうか】

生け捕りて毒蛇送りしブタンタン
蛇の皮はげば卵の二十程
片陰に花屋の並ぶ墓園かな

   サンパウロ         橋  鏡子

かずま師の蟹の句ありし電子辞書
【十二月の句会の折、電子辞書をひいていた作者が、驚いた様子で「かずま先生の蟹の句が例句に載っていますよ」と言って見せにきた。見ると確かに蟹の例句として並んでいた。
 『人は核蟹は鋏で戦へり  富重かずま』とあり句友と見せ合って喜んだ。とっさに一句を詠む作者に拍手を送りたい佳句である】

一徹に土を愛して草むしり
抜け目無く合羽売りつけ滝遊山
似合ふ人似合はぬ人も夏帽子

   サンパウロ         平間 浩二

蜘蛛の囲に朝日煌く雫かな
手庇の余儀なくされし西日坂
燃え落つる西日いまだに居間のなか
そうめんに浅き紫茗荷の子

   サンパウロ         篠崎 路子

指のぼる先は絶壁天道虫
抱きこめる森にとどろく滝落ちる
肖像のパナマ帽なる父老いず
天道虫星数いくつ小宇宙

   サンパウロ         建本 芳枝

青嵐ハンドル揺れて峠路
忘れられ紫陽花ひそと庭の隅       
人目引く程の大株君子蘭
亡母縫ひし座布団解き春惜しむ

   サンパウロ         高橋 節子

頼り合ふ親子で乾杯年送る
一病にビールを絶ちて年忘れ
洪水や爪あと残し年は行く
黄蝶きて花と吾にも戯れる

   サンパウロ         鬼木 順子

桑の木や花も実も無き我が狭庭
痛み癒え露草の道踏み行けば
梔子(くちなし)の馨し(かぐわし)き香に立ち止まり
花弁や風に遊ばれ師走道

   サンパウロ         上村 光代

中庭に蛇が出て来て大騒ぎ
畑よりブタンタンまで蛇はこぶ

『ブタンタン』とは、サンパウロ市にあるブタンタン毒蛇研究所のこと。サンパウロ州立総合大学に隣接しており、毒ヘビ、毒グモ、サソリなどの血清研究では世界的にも有名である。昨年、秋篠宮殿下がご来伯の際に訪ねられた。

『ブタンタン』とは、サンパウロ市にあるブタンタン毒蛇研究所のこと。サンパウロ州立総合大学に隣接しており、毒ヘビ、毒グモ、サソリなどの血清研究では世界的にも有名である。昨年、秋篠宮殿下がご来伯の際に訪ねられた。

夏野より光輝く朝日かな
せかせかと買ひ物をする師走かな

   タウバテ          谷口 菊

動物園大きな蛇が舌を出す
師走だよ年越そばを食べにけり
白靴で健康な母ゲートボール
道歩き夾竹桃の見事咲き

   スザノ           渓村 俊二

老いの身を安ずる友や夏の風
紫陽花の苗植え逝きし妻の顔
人生は苦あり楽あり年の暮
思ひ出も過ぎし寝不足年逝きぬ
【どの句にも深い想いのこめられたものばかりでした。ただ俳句には必ず季語がはいらねばなりませんので、季語の無い句には夏の季語や年の暮れの季語を入れてみましたので、どうかご参考になさって下さい】

   オルトランジャ       堀 百合子

気前良き異人婿さんサングラス
喜雨ありて草木はびこる夜も昼も
蝉の声聞けば懐かしサッペ小屋
故郷は庭木の多し蝉時雨

   ピエダーデ         高浜千鶴子

振り返る思ひ重ねて忘年会
来る年も去る年程の幸祈る
寿会余す日惜しみ忘年会
また一年夢のごとくに過ぎにけり

   カンポス・ド・ジョルドン  鈴木 静林

陽春や村対抗のフットボール
陽春や新しき札の小買物
夕霞肩に手綱かけ農夫と馬
夕霞犬は耕馬の先を駆け

 

【新年明けましておめでとう御座います。皆様お揃いでよいお年をお迎えの事と存じます。
今年初の俳壇を送らせていただきます。引き続き楽しく明るい俳句、お待ちいたしております。ごきげんよう。
富重 久子】

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