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ルーツを忘れないことの重要性

イースター島のモアイ像(By Aurbina (Own work) [Public domain], via Wikimedia Commons)

イースター島のモアイ像(By Aurbina (Own work) [Public domain], via Wikimedia Commons)

 「どうやってモアイ(巨人石像)を作ったのか。僕らは祖先の歴史や文化を忘れてしまった。今では誰もロンゴロンゴ文字を読むことができない。何が書いてあるか分らない」。17年ほど前、イースター島を訪れた際、泊まった宿の10歳ぐらいの子供が、そうつぶやいたのが今でも頭にこびりついている▼心の大事な部分にぽっかりと穴が開いているような、物凄く寂しそうな表情だった。モアイ建造は10~17世紀ごろ。18世紀以降、西洋人の到来による天然痘の蔓延や、奴隷として大陸に連行されたことで島の文明が途絶してしまった▼その時から、日本の古い神社などの貴重さが身に沁みるようになった。たとえば伊勢神宮がいつできたのか。690年には第1回の内宮式年遷宮が行われているから、少なくとも1330年以上の歴史があることは間違いない▼以来、基本的に20年に一度、社を立て直して遷宮する儀式は実施され続け、2013年までに実に62回も行われてきた。気が遠くなるほど太古の木造建築技術が今も維持され、信仰されている▼これほど歴史がある「儀式」は世界中探しても他にない。ギリシャのパルテノン神殿、南米ならインカ帝国(15~16世紀)のマチュピチュなどはとっくの昔に遺跡になった▼来年3月、パウリスタ大通りに開館するジャパン・ハウスには「伊勢神宮周辺のヒノキが使われる」との広報があった。日系人が伯人の友人に、そんな伊勢神宮のうんちくを語ることは重要だ。そのような口コミの日本文化伝達が、周り巡って日伯交流を益する▼このような日本独自の歴史は日系人なら知っておいて損はない。日系人が胸に秘めていい物語、ルーツや学べる読み物として、日ポ両語の『日本文化』を今年1月に創刊し、先日ようやく第2巻も発行できた。今回、伊勢神宮の話はもちろん、忘れてはいけないコロニアの歴史として〃コロニアの母〃ドナ・マルガリーダの話を掲載した▼今では「ドナ・マルガリーダ」の名を聞いたこともない三、四世がたくさんいる。そんな彼らに読ませてやってほしい。日本なら「二宮金次郎」「エジソン」などの偉人伝を子どもに読ませ、「どう人生を送るか」を子ども時代から考えさせる。そんなお手本がコロニアにもある▼日本に対する興味、日系人としての自覚は、そのような「先人の実話」から入るのが一番いいのではないか。実際、彼女が創立に関わった「聖母婦人会」や「救済会」の役割の重要性は少しも衰えていない▼ボツカツ文協の坂手實評議委員長は5月7日の「第2回サンパウロ州日系地方団体代表者の集い」で、こう言った。「100年後の歴史家から『日本移民が来たことでブラジルは良くなった』と言われるような役割を、我々は今、果たさなくてはいけない。自分が食べたいものを我慢して子供の教育に投資してきた両親への感謝を頭に置きながら」。どんな役割を果たすべきかといえば、ブラジルに足りないものを広めることだ。その一つは日系人の勤勉さ、真面目さの源泉である、教育、道徳、倫理の重要性を広めることだ▼坂手さんはサンパウロ州立大学ボツカツ校(UNESP)教授の傍ら、同地文協創立に尽力してきた。「父から『お前はブラジルで生まれたのだから〃良きブラジル人〃になれ』と繰り返し言われて育った。今の政界混乱や汚職を思えば、『良きブラジル人』とは『日本文化を残した日系人』といえる時代になった。特質を継承した日系人であることで、よりブラジルに貢献できる時代になった」。そんな彼の言葉には、ブラジル社会を良く知っている人物ゆえの重みがある。イースター島の子供のようにならないために、日系子孫にはルーツを知って「良き日系人」になってほしい。(深)

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