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頭に血が上ったレナン上院議長。その奥で、薄ら笑いを浮かべているようにも見えるグレイシ上議(Foto: Marcelo Camargo/Agência Brasil)
頭に血が上ったレナン上院議長。その奥で、薄ら笑いを浮かべているようにも見えるグレイシ上議(Foto: Marcelo Camargo/Agência Brasil)

PTはすでに2年後に照準?!

 「弾劾裁判にはドキュメンタリー映画作家が何人もいて仔細に記録している。どうやらPT系から依頼されて撮影しているよう。2年後の大統領選挙で使うのではないか」―28日昼のCBNニュースで、そんな考察をエポカ誌記者が報告していた▼その見方によれば、PTはすでに今回の地方統一選挙は捨てており、照準を18年に合わせている。PTは弾劾裁判の劣勢をひっくり返せるとは思っていないが、少しでも2年後の選挙運動で使える映像素材を撮影する場として活用しようと意図し、敢えて挑発的な言動を繰り返していると見ている▼実際、今回の地方統一選挙のPT市長候補は驚くほど少ない。本来ならここで出来るだけ多くの市長を出して、2年後の大統領、州知事、連邦議員選挙時の地盤を固める時期だ▼また弾劾裁判開始と同時に、ルーラ夫妻がクリチーバの連邦警察から初起訴されたことに関しても、PT関係者は「まるで弾劾裁判の罷免票を増やそうと図ったかのよう。偶然にしては、あまりにも出来過ぎのタイミング」と反発する▼PT急先鋒のグレイシ・ホフマン上議は弾劾裁判の第1日目に「上院にはジウマ大統領を裁くような倫理があるの?」と煽って与党陣営を白熱させ、血の気の多い上議から「お前の方こそドーピング検査(汚職捜査の比喩)をした方がいいじゃないか」などの見苦しいセリフを引き出すことに成功し、翌26日にはレナン上院議長が「グレイシと夫が起訴されないように最高裁の手続きを手伝ってやったのに」などと裏交渉を暴露し火に油を注いた。これはPTの術中にはまっているのかもしれない▼というのも〃弾劾裁判〃とは、純粋に法律的判決ではなく、相当に政治的な判断が含まれたプロセスだからだ。ジウマはペダラーダ(粉飾会計)の財政責任を問われて職責剥奪の憂き目にあるが、その専門的な内容は国民には分かりにくい▼本来なら、戦後最悪レベルの不況に陥れた経済政策ミスや、国営企業ペトロブラスの株を10分の1以下にする大損害を与えた責任が問われるべきだが、罷免訴訟には入っていない。でもそれらを背景として「辞めさせるべき」との政治的総意があるから、弾劾裁判で3分の2以上が賛成に回ると予想されている▼その分、ムリヤリに罷免に持ち込んでいる部分があり、それが2年後にどう判断されるか―という部分をPTは見通している。レナン議長もその時までにラバ・ジャット作戦で逮捕されている可能性がある。PSDB有力候補アエシオ・ネーヴェスしかり、現閣僚やPMDB幹部しかり。2年後にそこまで捜査が進んでいたら、グレイシ上議が吐いた「ジウマを裁く倫理がアンタたちにはあるの?」という問いかけは、かなりの説得力を持つ。もっとも、その彼女自身がどうなっているかも見ものだが…▼とはいえ「ジウマ罷免はムリヤリ仕組まれた」という反テメル・キャンペーンの映像素材はかなり集まっている。与党側の弾劾裁判における数的優位はとっくに確立しているのだから、どんなことを言われても聞き流し、淡々と終わらせるのが上策ではなかったか▼29日午前のジウマの自己弁護演説では、歴代の人気大統領に自分を譬え、あえて専門的な反論をせず、選挙民に訴えるような感情的で分かりやすい話に終始した。反政府活動家時代の裁判と今回を比較し、前回は軍政、今回はエリートや富裕層が仕掛けた「国家によるクーデター」、自分はその犠牲者として十字架にかけられる殉教者であるかのように振舞った。もしジウマが問われるのが財政責任だけであれば、その譬えは2年後に説得力を持つ▼いま次の大統領選の仕込みが行われ、伏線が引かれている。歴史は「作用」と「反作用」、「事件」とその「反動」が繰り返す絵巻だ。つまり罷免が決まった瞬間に、その反動がもう始まっている。今回企画されている実録映画は10年後、20年後、一般大衆が弾劾裁判の詳細を忘れた頃に一人歩きして「ジウマはクーデターの犠牲者」というPT史観を後世に定着させる武器にもなるかもしれない。(深)

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