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『百年の水流』開発前線編 第二部=南パラナ寸描=外山 脩(おさむ)=(4)

二人妻

 長谷川武は人格者で、後に邦人社会のため献身的に尽くした──と資料類には記されている。
 以下、前出AYUMIよるが。──
 長谷川がサンタ・オリンピアに居た時、高田はまこという女性がやって来て、一緒に暮らし始めた。彼女は、長谷川がリベイロン・プレットに居た時に知り合ったという。
 ところが、長谷川は、実は日本を出る前に、別の女性と結婚していた。
 その女性から手紙が頻々と来ていた。「自分もブラジルに行き、一緒に暮らしたい」と訴えていた。
 その内、実際、それを行動に移した。
 同時期、長谷川は、はまこに「日本へ行って、教養を身につけてくるよう」説得していた。彼女は従った。
 長谷川は、はまこをサントスまで送り、一週間後、そのサントスで日本から来た結婚相手を迎えた。
 彼女は一年ほどして病死した。マレッタであったという。やがて、はまこが戻っている。
 当時を知る古い住民は、「二人はどちらも、もう一人のことは、知らなかったろう」と話していたという。
 長谷川=人格者説には、合わぬ様な気がする。
 しかし実際、長谷川は真面目で誠実で親切な人柄であったようだ。むしろ、そうであったから、女性に関しては不器用で、若気の過ちから、こういう綱渡りの様な羽目に、陥った──とも考えられる。困り切っていたのではあるまいか。
 長谷川は、1923年、サンパウロへ戻り、海外興業(支店、本社=日本)に入った。1934年リオで開催された制憲議会で、排日法案が提出された時は、成立阻止のため奔走した。大統領にも直訴した。結局、敗れはしたが、その必死の働きは、それを知る人々によって語り草になった。
 ちなみに、彼はポ語に関しては、天才的だったと言われる。
 戦後は、サンパウロで法律事務所を開いた。日本からの移民再開のため尽力した。1957年、交通事故で没。
 それから30余年後、筆者は、はまこ夫人に会ったことがある。長谷川武の足跡を取材するためであった。夫人は90歳という高齢になっていたが、ハキハキした話しぶりだった。
 一人、庶民住宅で暮らしており「子供から同居を勧められますが、一人の方が気楽なので、こうしています」ということであった。気丈な性格の持ち主という感じだった。
 AYUMIにある二人妻のことは、その時、筆者は知らなかった。
 が、リオ時代については滑らかだった夫人の話ぶりが、アントニーナ時代になると、不自然に固く短く変わり(おや?)と、訝しんだ記憶がある。
 いつの頃か、総てを知り、思い出したくない傷跡になっていたのかもしれない。気丈さは、それに堪えた歳月が培ったのであったろうか──。
 この小さなコロニアにも、こういう人間ドラマがあったのである。

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