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内陸水路3302キロの可能性=船舶の建造は今年かなり減少=急がれる閘門システムの構築=パラグァイ在住 坂本邦雄

パラグァイ常石造船所で。進水間際の4千馬力級のプッシャーボート

パラグァイ常石造船所で。進水間際の4千馬力級のプッシャーボート

 造船業界の話では、パラグァイにおける今年の新造船の受注量はかなり減少したと言う。これは最近、製鉄産業への原料鉄鉱石の輸送量が一段と低下し、船腹の需要が著しく減ったためのようだ。UIP・パラグァイ工業協会の視察団が、先日複数の造船所を見学した際に、この問題は指摘された。この事態が現在諸造船所の新バージ建造の不振を招いている。

 その一例として、在ビリャ・アジェス市の「チャコ・パラグアジョ造船所(株)」のビクトル・サナブリア営業マネージャーは、昨年はあるドイツ企業へ48隻のバージを建造し納入したが、今年の実績は90%の減少だと説明した。そして、造船所の今の主な作業は、船舶の修理や改装に限られている。
 この純内国資本の造船所は過去30年来パラグァイで300隻の載貨量3千トン級までの平底各種パージの他に多くの推力5千馬力までのプッシャボートを建造した。
 一方、在ビリェタ市の「パラグァイ常石造船所(株)」のマルシアル・ノリユキ代表は、最近の鉄鉱石輸送の減少事情が船舶建造の受注不振に大きく影響したと語る。
 この事態は、同日系企業の採算性維持の為に、運営費の妥当な節減を強いている。なお、同造船所のバージ建造実績は年間平均48隻の由である。
 しかして現在、此の「常石グループ」の造船所では載貨量350万リットルの燃料輸送用タンクバージ4隻を建造中だと、マルシアル・ノリユキ代表は説明した。
「パラグァイ常石造船所(株)」は、我が国に2012年より企業進出しており、既に積載量1・5千トン、2・5千トン、3千トン級の各種平底バージ及び推力6・000馬力までの優秀な複数のプッシャボートを建造して来た。
 常石グループは他にも、日本を本拠とし、中国及びフィリッピンで造船所を運営・開発し、大型海洋船も建造している。
 我がパラグァイは、近年アメリカ及び中国に続いて世界で3番目の河川水運国の位置に達し、「パラグァイ〜パラナ河水路」を航行する約3千艘のバージと200隻余りのブッシャボート保有量はアメリカに次いで2番目である。
 これも、おおよそ40余社の大小造船所で建造、または改装された国産船舶で、中でも筆頭の「パラグァイ常石造船所」を始めとし、2位の「チャコ・パラグアジョ造船所」や、3位の「漁夫の舟・La Barca del Pescador」等の大手造船所の貢献が大きい。
 かくして、皮肉にも内陸国パラグァイは、北はブラジルのカセレス港から南はウルグァイのヌエバ・パルミラ港までの、実に延長3302キロに及ぶ「パラナ〜パラグァイ河水路」に君臨する南米一の河川商船隊の保有国になったのである。
 ラプラタ河流域の各河川の航行条件の改善等を目的とする国際協定がアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグァイ及びウルグァイの間で存在する。
 しかし、面倒なのは今始まった事でもないが、自由航行の国際条約が立派に有るにも拘わらず、パラグァイ国籍の船舶は理由もなくアルゼンチン当局の嫌がらせに遭う事がよくあるのである。
 特に内陸国のパアラグァイとボリビアにとって「パラナ〜パラグァイ河水路」は交易の為の外洋港に到る重要な輸出入物産の運送手段であって、その保護・擁護にはお互いに国際信義が重んじられなければならない。
 この水路が相補的に重要なのはブラジルの「パラナ〜チエテ河水路」が下流で所謂ラプラタ河流域に合流し、南米南部地域諸国の経済統合に大きな役割を果す効果は見逃せないためである。
 サンパウロ市内を流れるチエテ河と言えばかつて宮坂国人(昭和期の移民事業家、南米銀行創始者)が戦前に、日本の技術と経済援助で吊橋式大橋を架橋した。これは日本人植民事業に大いに役立ち、筆者もパラグァイへ転住の際には渡って来た思い出の深い河である。
 件の「パラナ〜チエテ河水路」はブラジルのマット・グロッソ、南マット・グロッソ、一部のロンドニア、トカンチンスとミナス・ジェライス各州の農産物輸送に重要な水路で、既に2001年には200万トンの貨物搬送に利用された。そして、その経済効果は76万平方キロもの地域に及ぶ。
 ただし、この場合は「パラナ〜パラグァイ河水路」とは異なり、チエテ河とパラナ河それぞれの各発電所ダムによる水位差の問題で、パナマ運河方式の閘門(こうもん)が各所で必要であり、現に設備され機能している。
 しかして、同水路計画は次の各航路区間を繫ぐ全長1747キロに及ぶ大規模なものである。即ち、
◎イタイプー・ダム〜イーリャ・ソルテイラ・ダム間パラナ河789キロ
◎パラナ河〜アニュマス間チエテ河554キロ
◎サンジョセ・ドス・ドウラードス〜サン・シモン間パラナイバ河180キロ
◎パラナ河〜ドウトル・カマルゴ間イヴァイ河90キロ
◎パラナ河〜アグア・ベルメーリャ間リオ・グランデ河59キロ
◎パラナイバ河〜ペレイラ・バレト運河間サンジョセ・ドウラードス河44キロ
◎チエテ河〜サンタマリア・ダ・セーラ間ピラシカ―バ河22キロ
◎サンジョセ・ドス・ドウラードス河〜チエテ河間ペレイラ・バレト運河9キロ、
以上、各河川の水運合理化と効率化を画期的に計るものである。
 そして、この大水路が「パラナ〜パラグァイ河水路」に合流運航されるには、巴伯イタイプー水力発電所と巴亜ヤシレタ水力発電所の両ダム夫々の通航障害を除く閘門システムの構築が急がれる。
 これが実現した暁には、パラグァイは双方水路の恩恵を正に享受するに至り、内陸国の立地的ハンディキャップを返上し、これまでにない堂々の貿易国となろう。

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