大統領選を左右するか「戦略投票」
「Voto util」(戦略投票)が大統領選を左右するかも――「戦略投票」とは、自分が入れたい候補に投票するのではなく、世論調査などから予測される数字を考慮して、「まだマシ」な結果になるように投票先を替えることだ。
6日に暴漢に刺された後、ボウロナロ候補(PSL)へのマスコミの注目度が一気に高まり、同情効果もあって支持率がグッと上がった。さらに11日にPT大統領候補が正式にルーラからハダジに切り替わって、これにもマスコミが群がって報道した。
「反ルーラ」対「親ルーラ」という分かりやすい対立図式の中で、インパクトのある二つの〃事件〃がおきた相乗効果で、ハダジが一気に2位グループの塊りから抜け出した。その結果、政局が「極右ボルソナロ」対「左派ハダジ」の一騎打ちに一変した。
政策や理屈を越えて、反ルーラ勢力がボルソナロ支持に回っていた部分があり、PTが伸びればボルソナロも伸びる関係があり、2極化の傾向は以前からあった。しかしボルソナロの刺傷事件とルーラからハダジへの乗り換えの2大事件をマスコミが連日報道したことで、一気に二極化が進んだ。
マスコミの大半はボルソナロもPTも支持していない。だが、「話題を呼ぶネタを大きく扱う」というメディア特性が、結果的に二極化を進めるエンジン役を担っている。
投票3週間前にして突然その状況になり、「どっちもイヤだ」とショックを受けた有権者は多い。そこで「戦略投票」という言葉が盛んに言われるようになった。
具体的に言えば、現在の大統領選挙予測からすれば、政権運営経験ゼロの極右ボルソナロがダントツ1位、ラヴァ・ジャット作戦で汚職政治家ザクザクの左派PT候補が2位。もし今のまま投票日(10月7日)を迎えれば、この二人が決選投票に進んでしまう。
そうなれば、極右と汚職左派の対決となり、「絶対にどちらにも入れたくない」という中道支持の有権者が無数に生まれる。
しかも、ボルソナロは拒絶率が42%と異常に高い候補であることから、2位の候補が決選投票では1位になる可能性が非常に高い。つまり、「1次投票で2位の候補が大統領になる確率が大変高い」という異常な決選投票になる。
この二人以外を支持している人にとって、どちらになっても不本意な結果だ。だから「別に支持はしていないが、極右や汚職左派よりは〃まだマシ〃なアウキミンやシロを決選投票に進ませよう」という動きが始まっている。
このように、有権者が世論調査の結果を判断して、戦略的な思考を働かせる投票行動のことを「戦略投票」という。
インフォマネーサイト電子版21日付記事によれば、《17~19日に実施されたXP/Ipespe社の世論調査によれば、37%の有権者が望まない結果を避けるために、決選投票で戦略投票をする可能性があると答えている》《アルバロ・ジアスの支持者の60%、シロの54%、マリナの52%、アウキミンの42%は、望まない候補者に対抗して戦略投票することを認めている》と報道している。
これは、決選投票に対する調査だが、当然、「誰が決選投票に進むか」という段階でも、この思考は発揮される。
先週からメディアが「戦略投票」を盛んに取り上げ始めたことで、今週、来週の世論調査でその影響が出る可能性がある。戦略投票が多くなればなるほど得をする候補の一人は、アウキミンだ。だが現状でアウキミンは、3位のシロの下、4位にすぎない。支持率はわずか7%…。
だから戦略投票を取り込もうと、「ボルソナロに投票したらPT政権になる」などと選挙キャンペーンに積極活用をしている。
アウキミン陣営は21日のテレビ宣伝から「どっちが勝ってもベネズエラ化する」キャンペーンも開始した。豊富なテレビ宣伝時間を持ちながらも、まったく享受できなかったアウキミン。ここへきてようやくエンジンがかかって来たように見える。
その宣伝ビデオでは、ルーラとチャベスが強い絆で結ばれていたことや、ボルソナロも軍人繋がりで元軍人のチャベスを称賛していたことを強調し、「石油収入で豊かだったあのベネズエラが、〃救世主〃だと国民が期待して選んだカリスマ大統領によって独裁政権化し、その日の食卓に困る状況に国民が追い込まれ、難民となって流出している。ブラジルも過激な候補を選べば闇が待っている」と両極候補を攻撃し始めた。
金融系マスコミには「マーケットはアウキミンからボルソナロに乗り換えた」と報じられ、24日付エスタード紙は「セントロンもアウキミン抜きの2次投票を想定し始めた」とも伝えている。悲しいことに、有権者の4割近くがルーラの汚職を悪だと認識しないルーラ信者、別の3割がボルソナロの軍事政権や拷問の擁護発言を問題だと思っていないボルソナロ信者だ。
そんな彼らに、戦略投票という高度な選挙行動をとらせることが可能か―というのが最大の課題だ。
シロ、アウキミン、マリナ、メイレレスらの反撃による戦略投票の意識づけが、どれだけ効果を発揮するかが、次の支持率調査に現れる。泣いても笑っても1次投票まで2週間を切った。これからが最後のせめぎ合いだ。ここで2位に残った者が、大統領の椅子に座る可能性が高い。(深)