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パラグァイ=マリト新政権の蜜月期間終り=さっそく副大臣解任の波乱=アスンシオン在住 坂本邦雄

マリオ・アブド・ベニテス新大統領(通称「マリト」、Kremlin.ru)

マリオ・アブド・ベニテス新大統領(通称「マリト」、Kremlin.ru)

 早いもので、計算して見るとマリト新政権が8月15日に就任してから、今月の23日(金)で、政権交代後の100日の所謂、報道の「ハネムーン期間」の満期を迎える。
 これは、民間企業の従業員採用時の「試用期間」の様なものだが、近代の民主主義政治においては、その間の成績がどうであれ、選挙で選ばれた大統領が、正か採用不合格にはならないにしても、「ハネムーン期間」の“紳士協定”が解けて、多少は遠慮していたマスコミも―今でも言いたい放題の事を言ってはいるが―更に批判の鉾先ほこさきを尖鋭化するであろう。
 ちなみに、新政権の「最初の100日の国民・マスメディアとの関係」を、新婚夫婦の蜜月に擬なぞらえた名称は、米国のF・ルーズベルト大統領の就任時(1933年)に始まったものだと云われる。
 別名マリトこと、マリオ・アブド・ベニテス新大統領の就任早々、ある政界の識者は、新進気鋭のマリトは若輩だが、政治家として好ましい素質を備えているので、人格的にも立派で優秀な、適材適所の閣僚や側近を選ぶ人事を誤りさえしなければ、マリトはこれ迄に見られなかった、善政が布ける可能性が充分に有ると語った。
 一方、パラグァイの政治史上、初の元司教出身の、中道左派のフェルナンド・ルーゴ大統領(2008~12)に対抗し、赤党コロラドの公認候補として大統領選に出馬した、元文部文化相で現上院議員のブランカ・オベラール女史もある際の、赤党集会に於いて、マリトの特質や能力を称揚し、その前途を祝す傍ら、パラグァイの特殊な政治風土に触れて、統治の難しい国である事を指摘し、注意を促すのを忘れなかった。
 マリト新政権の発足で、まず好い徴候の一つとして一般市民に迎えられたのは、司法界で清廉で実直をもって知られる、元検事で上院議員のアルナルド・ジウッジオ氏が国家麻薬取締局の新長官に任命された事だった。
 その結果、早速現われ出した効果は、麻薬密輸団の大物一味がブラジルとの国境地帯やアスンション市で、次々と芋蔓式に逮捕され、大打撃を受け始めているのは周知の通りである。
 つい最近、この12日(月)の事だが、ブラジルへ引渡され、拘禁中の「首都第一コマンド=PCC」のジャルビス・シメネス・パボン及びコマンド・ベルメーリョのマルセーロ・ピニェイロ、別名ピロト(パラグァイで服役中)両名の、著名な亜国籍弁護士ラウラ・カスソ(享年54)が、伯国ポンタポラ市とコナベーションを成す、国境都市ペドロ・フアン・カバリェーロにおいて、ブラジル人と思われる二人の刺客によって、無残にも射殺された。
 この悲運の女性弁護士の殺害は、前述の伯国両犯罪組織団(マフィア)の勢力争いの渦中、背信行為の廉(かど)で、報復の犠牲になったものだとは、当局関係筋の意見である。(当のカスソ弁護士も生命の危険を告白していた)。
 確かに、カスソ弁護士は生前アスンション市の、ABC紙の有名なマベル・レインフェルト女性調査報道記者と親交があり、マフィア首脳連の電話の遣り取り等、多数の機密録音テープや資料を提供していた。例えばその中でも、未だに潜伏中で住所も判らぬ、カルテス前大統領が「魂の兄弟=血誓の友」と呼ぶ、ブラジルの大ドレイロ資金洗浄犯、ダリオ・メッセルの膨大な財産が、「押収・没収資産管財局=SENABICO」の管理下に在る処、その中の大多数に及ぶ、牧場飼育肉牛の、毎月の競市工作の陰謀に拘わる録音データがあった。
 要するに、パ国政府の最高レベル当局者が癒着するマフィア絡みの大仕掛けな悪行が、次々と綻び出して、暗に蜂の巣を突いた様になったのである。
 奇異なのは、たまたま同管財局の長官が、マリト大統領の数ある異母兄弟の中の一人の愛人だと言われる、カリナ・エべリーン・ゴメス・ナルバエス女史だと言う事だ。
 こう視て来ると皆がお互いに知合いの、この狭いパラグァイでは、勢い親族登用、縁者贔屓、温情人事や政治任用等が罷り通るのも止む得ない次第かも知れない。
 マリトにして見れば、人事の難しい政治風土であるが、最近「ハネムーン期間」中に起きた圧巻は、文部科学省で生じた、副大臣(次官)の更迭騒ぎだった。
 元々、新政権の発足に当って、文部科学大臣には、エドァルド・ペッタ参議員と、元文部文化相(文部科学と改称)の経験があるブランカ・オベラール参議員の実妹で、教育政策に明るいナンシー・オベラール女史の二人が最有力候補に上がっていた。
 それを最終的に、マリトは教育部門では素人のエドァルド・ペッタ参議員を大臣に任命した一方、テクノクラートのナンシー・オベラールを副大臣に据えた。典型的な政治登用である。
 しかし、この人事は当初から、政治家の大臣とテクノクラートの副大臣との間で、上手く行く筈はなかった。
 しかして、事ある毎に副大臣の突き上げに遭って、ペッタ大臣はそのせいで、重要な教育政策や校舎施設の改善が順調に行えないと非難した。(註・ナンシーの夫君はかつて、文部科学省の不当な応札で多額の利益を得た他、複数の名目上の教員報酬を享受している等の不正が発覚し、ペッタは厳しく咎めていた)。
 両者の不和は日増しに嵩じ、最後はブランカ・オベラール参議員とペッタ大臣の政治紛争に発展した。
 そして、「ナンシーが辞めなければ、自分が辞める」とまでペッタは言うに及び、この問題は最終的に大統領の決断に一任する次第となった。
 マリトも就任早々、大変な試練の難題を抱えたものだが、上司と部下の争いは組織の規律として、上司に分があるべきとするのは当然であろう。
 よって、アブド大統領は、ペッタ大臣の信任を改めて確認し、ナンシー副大臣は解任した。
 ことはこれで治まり、ペッタ大臣はナンシーの後釜に、腹心のロベルト・カーノ高等教育次官を起用した。
 先にも述べた通り、ブランカ・オベラール参議員(上院議員)は、パラグァイは小さいながらも、統治が難しい国だと示唆したが、当の自分自身の妹の問題で、早くもその一端が如実に体現されたのは、奇なるかなではある。
 これまでの閣僚人事を見るに、余り大した顔ぶれでもない様に思えるが、ここは「ハネムーン期限」も迫っている処、速やかにマリト新政権の体制が固まり、これからは順調な軌道に乗る事を大いに期待したいものだ。

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