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或る「俳句会」に参加して=リオ大学日本語科学生さん達の体験句会=サンパウロ州アルミニオ市 伊那宏

初めての句会に挑戦するリオ州立大学日本語科の学生の皆さん

初めての句会に挑戦するリオ州立大学日本語科の学生の皆さん

 去る1月23日、サンパウロ市内ピリツーバに在る浄土宗派日伯寺において、リオ州立大学日本語科の学生さん25名ほど(教師数名含む)が集まって俳句会が催された。彼らは1週間の日程で日本文化体験ツアーを組まれ、同寺院に宿泊滞在された。俳句会はその一環として催され、23日午前9時から正午まで3時間の予定で、同寺院のサロンにて行われたのだが、ツアーのリーダー北原聡美先生の要請を受けて、私が句会の指導を担当させて頂くことになった。
 参加したブラジル人の生徒さんのほとんどはかなりの日本語を修得されていた。中には日本からの留学生や、日系人もおられたので、句会は日本語でという主催者の要望にそって、すべて日本語でやらせて頂き、司会担当の北原先生が適宜にポ語訳をして下さった。
 今回の句会のやり方については、2週間ほど前に先生との間で段取りを決めておいた。兼題用の季題二つ「新年」と「夏の雨」を予め提示しておいて、各自作って持って来て頂き、他に席題として、当日の朝句会開始と同時にもう1句、「蝉」と「蛙」の季題を提示、そのどちらか一つ好きな方を選んで作って頂いた。
 どちらも芭蕉の代表句「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」と「古池や蛙飛びこむ水の音」から頂いたものである。生徒さんの中にはその句を知っている人もいるかと思い、特にその季語を選ばせて頂いたのである。
 席題句を作ってすぐに、用意してきた3句同時に書き込める短冊を配布、自分の句3句を書き込んで、それぞれの句に番号を記入して頂いた。
 全員が書き終わるの待ってその短冊を右回しに送りながら共鳴句や印象に残った句をメモ帳に書きとめてもらい、ひと通り回ってから選句用紙を配布して、そこに作品番号とともに5句を選んで記入、選者名も入れて回収係りの手によって集められた。書き込みが手間取るのを予想して番号のみ記入、作品精記は省略することにした。
 なにぶん参加者全員が初めての試みである。多くの学生さんはそれまで句作の経験はなく、思案しながらの手探りで3句をものにして頂いたわけだが、ここに至るまでにすでにかなりの時間を費やした。次に始まる披講と採点にかなり時間を必要とするので、時間内に句会が終了するかどうか少々心配にもなってきた。
 さて、いよいよ披講(各自の選句作品を読み上げること)に入り、予め指名されていた披講者によって読み上げられた番号の該当作者には、その場で即座に名乗りを上げてもらい、逐一採点係によって記録されて行った。
 全部披講し終わったところで点数が集計されたが、この時点ですでに残り時間があまりなく、あと30分ほど延長されて上位作品の発表が行われた。そして、それら作品の1句1句について私が感想を述べ、最後に私自身が選んだ10句を発表させてもらってから、句会そのものの感想を、北原先生と私が共に述べて閉会となった。
 全体的な印象としては、かなり高度の日本語を修得されている生徒さんの作られた俳句は、普段私たちが接している俳句とはずいぶん質を異にしていた。
 俳句独特の韻を含む言葉や、俳句のスタイル、つまり伝統俳句とか現代俳句とかの区別などまったくなく、各自思い思いに俳句というものを作られたのだが、中には難解俳句、抽象俳句ばりの作品もあって、日本の現代俳句作家の作品に見劣りしないような俳句も散見でき、私自身楽しい思いをさせてもらった。
 全員初心者ながらいわゆる〝子供俳句〟とはまったく異なる、大人の感性と知識でもって作られた純粋な次元での俳句とは、このようなものなのだと納得させられた。
 事前に指導された先生方の努力がこうして実を結んだのである。そして私自身、多くを学ばせて頂いた句会でもあった。
 以下は上位に選ばれた作品である。(かっこ内は作者名)
【1位】(10点) 
夏の雨洗濯いれろ母の声 (エリーザ・佐々木)
【2位】(8点) 
姫のキス輝く蛙王子だよ (ロハイネ)
【3位】(6点)
蝉を聞く君の笑顔を思い出す (ブルーナ)
【4位】(5点)
森内の蛙が帰る帰り道 (マックス・ダニエル)
【5位】(4点)
新年も人が独自に決めた節 (橋本健太)
水音で異世界移動夏の雨 (マリア・エステル)
扇風機蝉の鳴き声共鳴や (ペドロ・アダッジ)
 最後に、投句数70句以上の中から私の選んだ10句を参考までに掲載させて頂く。(○印は私の選んだ特選句。作者名省略。中には「季重ね」もあるが、これはどちらの季語に比重を置くかで許容される問題であろう。なお「季重ね」については事前に生徒間で混乱の要因になったと先生から聞かされた)
◎夏の雨あいあい傘を遠巻きに
◎友達と心繋がる年新た
◎姫のキス輝く蛙王子だよ
◎夏の雨光り銀糸を描いてる (○)
◎新年に願うみんなの幸せを
◎蝉を聞く君の笑顔を思い出す
◎夏の雨のような君がやって来たの
◎Tシャツに蝉の抜けがら飾りつけ
◎寂しい夏蝉の歌はいい歌か
◎風も吹き夜蝉も鳴いて旅に出る
 以上のほかに印象に残った句を上げておきたい。
◎蝉が鳴く池でぼんやり一休み
◎白蛙泡を作ってるブクブクと
◎助けてよ洪水もたらす夏の雨
◎新年の度に期待が改まる
◎夏の雨神の恵みはありがたい

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