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元隠れキリシタンが作った保和会の役割

2016年12月にペレと結婚した青木シベレ・マルシアさんの記事(ヴェージャ誌サイト2016年7月10日付)

2016年12月にペレと結婚した青木シベレ・マルシアさんの記事(ヴェージャ誌サイト2016年7月10日付)

 「保和会がもうなくなるかもしれない」―そんな噂を聞いて愕然とし、関係者を急いで探した。
 保和会といえば、福岡県三井郡大刀洗町今村出身者で、元隠れキリシタンの青木家、平田家らが中心になって作った親睦会だ。1960~70年代には、平田ジョン進連邦下議の選挙応援で大活躍した。平田進の両親の出身地が今村だからだ。本田保神父の「保」と、当時本田神父を助けていた伝道師の青木和平の「和」をとって「保和会」という。
 長崎県浦上の隠れキリシタンの家に生まれた本田保(たもつ)は1867年(慶応3年)、14歳の時にキリスト教徒弾圧「浦上四番崩れ」でとらえられた。長崎県浦上村の村民たちが江戸幕府の指令により、大量に捕縛されて拷問を受けた事件だ。
 明治に変わっても、幕府のキリスト教禁止政策を引き継いだ新政府により村民たちは処罰されつづけ、本田保は四国の土佐に流刑された。《彼らは流刑先で数多くの拷問・私刑を加えられ続けたが、それは水責め、雪責め、氷責め、火責め、飢餓拷問、箱詰め、磔、親の前でその子供を拷問するなどその過酷さと陰惨さ・残虐さは旧幕時代以上であった》(ウィキぺディア「浦上四番崩れ」項、2019年2月3日参照)。
 欧米へ赴いた遣欧使節団一行(1871年12月から1873年9月)は、これが欧米のキリスト教諸外国で激しい非難を呼んでいることを知って驚き、弾圧が条約改正の障害となっていることに気付いて本国に打電。そのため1873年(明治6年)になって、ようやくキリシタン禁制は廃止された。
 これで、1614年以来、実に259年振りに日本でキリスト教信仰が公認された。
 これは「浦上四番崩れ」で、「一番崩れ」は1790年に起きていた。「二番崩れ」は1839年、「三番崩れ」は1856年、やはり密告によって信徒が捕らえられ拷問を受けていた。このように繰り返し密告を受けて拷問されていたために、彼らは「明治政府が公認した」といってもにわかには信じられず、海外を目指した。
 本田神父は1887年に長崎の大浦天主堂の司祭に、1896年には今村教会主任司祭になった。子供時代に弾圧を体験した本田神父が「外地なら気兼ねなくカトリック信仰ができる」と海外移住を勧めた結果、今村からはブラジル、ペルー、メキシコなどの新天地に向かう移民家族が多く生まれた。
 集団で向かった先の一つが、サンパウロ州プロミッソンのゴンザーガ地区だ。彼らはそこに今村教会をモデルにして、クリスト・レイ教会を建てた。正式名称は「キリスト王日本二十六聖人天主堂」。長崎二十六聖人を顕彰するものだ。
 この1月5日に保和会のメンバー、本岡・平田・サチエ・オウガさんからサンパウロ市ブルックリン区の自宅で話を聞いた。「母の兄弟が平田進の父。母が16歳のころ、平田家の構成家族として一緒に来た」という。
 母親はどんなふうに故郷の村のことを語っていたかと訊くと、「母が今村のことを語っていたのを聞いたことない。いつもブラジルでの生活のことを気にしていた」という。思い出したくない記憶だったのかもしれない。今村との関係はどうなっているかと尋ねると、「今はまったく連絡がない」という音信不通状態だ。
 昨年6月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産委員会で登録決定したことを知っているかと訊くと、「ああ、そうなの」とそもそも関心がないようだ。この登録申請は、もともとは「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」として大刀洗町今村も入っていた。
 だが、途中で、潜伏キリシタンに焦点を絞る形で構成資産が再考された結果、長崎と天草だけに限定された経緯がある。それを説明して「今村が外されたのは残念ですね」と同意を求めたが、ピンと来ていないようだった。
 夫で戦後の技術移民の本岡公さん(いさお、83、兵庫県)は「以前、今村教会の改修費用を支援してくれという手紙が来ていたな」と思い出した。

サンパウロの電話帳には平田家の名前がズラリとならぶ

サンパウロの電話帳には平田家の名前がズラリとならぶ

 『国会議員になった「隠れキリシタン」』(高橋哲朗、沖縄探見社、09年)によれば、保和会は1954年に生れ、毎年正月に平田進の自宅に今村関係者が150人も集まったという。高橋哲朗の取材に対し、中心メンバーの一人・平田ペドロは、《大サンパウロ圏だけでも1万5千人ぐらいの『青木』『平田』がいると思います。もちろん、全員に強い親族意識があるわけではないのですが、それでも千五百家族が会員になっています。二、三カ月に一度の割合で会報も出しています。毎月第一土曜日に頼母子講を開いて作った資金で、サンパウロの郊外に土地を買い、会館を建設しました。そこで毎年九月半ばころに運動会を開きますが、五百人くらい集まります》(140ページ)と往時の様子を説明している。
 保和会の現状をオウガさんに尋ねると、「まだ続いている。毎月イタペセリッカの会館に30人ぐらい集まる。でも若い世代は誰もいない。子どもたちは保和会に関心がない。まだ、まだ無くなってはいない」とのさびしい返事だった。
 昨年、日本移民110周年を顕彰して記念曲『ありがとうブラジル』を作って、各地の式典で歌った歌手・平田ジョエさんは親族の一人。そしてオウガさんから「そういえば、ペレの今の奥さんのマルシアも青木家よ」と聞き、両家のブラジル社会への浸透の深さを実感した。サッカーの“王様 ”ペレが16年に結婚した青木マルシアのことだ。
 聖書にある言葉「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、死なば多くの実を結ぶべし」を思い出した。保和会は役割を立派に果たし終えつつあるのかも―と思い至った。(深)

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